46:幼馴染
第46話です。流血表現などありますので、苦手な方はご注意ください。
「さて、と。 恵利佳、私はね……恵利佳の泣き顔がどうしても見たいの」
「な……何を言ってるの」
「私は貴女と出会ってから、どんどん貴女に惹かれて行ったわ。こんなに綺麗で儚い人が居るんだって……」
頬を紅潮させながら吉田さんの頬を撫でる河村さん。
吉田さんは身の危険を感じたのか身震いしている。
「私が友達になった時、貴女の笑顔はすぐに手に入った。とても美しかったわ」
「近寄らないで……気持ち悪い」
「フフッ、その蔑んでくる顔もとても綺麗。でも、それはもう入手済みだから……いじめたらすぐに見せてくれたものね」
そう言って河村さんも身震いしている。
変態だ、この人。
「汚い男なんかと違って、やっぱり貴女は素敵……」
その言葉に小岩井と川田が反応した。
二人とも可哀想に。
この人、きっと真正のレズだよ……。
「でも、貴方達は別よ。だって、私の大事な彼氏ですもの」
一応のフォローを入れる河村さん。
いやいや、絶対嘘だから。何であんた達それでホッとした顔してるんだ。
ていうか、二股!? 河村さんってとんでもない人だ。
「今日まで貴女のいろんな顔を見てきたけどね……どれだけいじめても泣いた顔だけは手に入らなかった」
「そんなことが目的で吉田さんをいじめてきたというの?」
「そんなこと? 恵利佳の全てを手に入れたい、その高尚な気持ちが貴女には理解できないの?」
「理解できない。本当にその人のことが好きなら、泣いてる顔なんていらない。ずっと笑っていてほしい」
「ガキね……」
あんただって同い年じゃないか。
それにしても、聞けば聞くほど河村さんの思想は歪んでいる。
一体どうしたらこんな風になってしまうのか。
「それでね、私考えたの。貴女はいくらいじめても泣かないけど、どうやったら泣いてくれるんだろうって」
「あなたなんかに屈することは無いわ……」
「でしょうね。あなたは自分の痛みだったらどんなことでも耐えられるもの。じゃあどうする? そこで私は思いついた」
河村さんがゆっくりとこちらを向いた。
そして、小岩井が私にゆっくり近付いてきた。
「貴女の大切なものを壊せば、貴女は泣いてくれるかしら?」
「は、放せ!」
「騒ぐな、切るぞ」
小岩井にナイフを当てられた。
怖い……こいつらみんな狂ってる……!
「日高さんに何するの!?」
「ウフッ、ちょっと酷いことをしちゃうわ。そうすれば、貴女は泣いてくれるでしょう?」
「やめて! 私にだったら何してもいい! だから日高さんには手を出さないで!」
「だーめ、もうここまで来たもの。引き返す気なんてさらさらないわ」
必死で手を振りほどこうとするけど、川田の馬鹿力で締め付けられて身動きが取れない。
こんな時、非力なこの体が恨めしい……!
「やめて! お願いだから……!」
吉田さんはもう涙を流していた。
「そんなんじゃないの。もっと嗚咽して、もっと私を楽しませて頂戴。さて、日高さんはどうしようかしら……」
河村さんは、こちらを窺うように見てくる。
何て顔をしてるんだろう……普段の河村さんとは全然違う。
「ねえ、覚えてる? 2年生の時のこと……それを、日高さんにもしたらどうなるかしら?」
「や、やめなさい! そんなこと……やるなら私に!」
「貴女はそれでも泣いてくれなかったじゃない」
2年生の時のこと……渡瀬さんが言っていた。
男3人に吉田さんがされたこと。 あれも河村さんがさせたのか。
それを私に? 冗談じゃない!
「そんなことしてみろ!私は絶対にあんた達を許さないぞ!」
「静かにしろ!!」
小岩井がナイフを押しつけてくる。
クソッ……こいつ……!
「日高さん……フフッ、気が変ったわ。貴女の泣き顔も見たくなったわ。普段から強気な貴女はどんな顔を見せてくれるのかしら」
「……この変態!!」
「恭佑、やってしまって」
「悪いな日高……」
「あんたのこと一生恨んでやる……!」
小岩井は、ナイフを私の服に当てた。
もう駄目だ……結局私は一人じゃ何もできない……。
こういう時、マンガやドラマだったら助けが来るんだけど、現実はそんなに都合よくできてない。
もういいや……せめて吉田さんだけでも救おう。
私はどうなってもいいから、吉田さんだけでも……。
「……恭ちゃん……せめて吉田さんだけでも……助けてあげて……」
いつか呼んだ幼馴染の名前。
こんなこと言っても何もならないとわかってる。
何で私は小岩井にこんな……。
小岩井は無言でナイフを動かした。
そして…………私を掴んでいた川田の手の甲を刺した。
「いでぇぇぇええええ!?」
叫び声を上げる川田。
小岩井、あんた……。
「な、何をしているの!?」
「智沙……俺には無理だ。 大事な幼馴染を傷付けるなんてできん」
そう言って、小岩井は川田を蹴り飛ばした。
「玲美ちゃん、逃げて」
歪んでいた小岩井の表情は、あの頃の懐かしい表情に戻っていた。
「小岩井……裏切る気!?」
「そこをどくんだ。俺は智沙を傷付ける気はない」
「今更裏切ったって……貴方だって共犯なのよ!?」
「わかってる、川田も刺してしまった。もう逃げる気はないよ」
小岩井は、河村さんにナイフを向けた。
「小岩井! 駄目!」
「玲美ちゃん、ごめんな。また……昔みたいに遊びたいな」
小岩井は、河村さんを力ずくで退け、吉田さんを拘束していた紐をナイフで切った。
「吉田、日高と一緒に逃げてくれ。あとの始末は俺が付ける」
「小岩井君……わかったわ!」
吉田さんは立ち上がり、私の手を引いた。
「待って、吉田さん! 小岩井が!」
吉田さんは後を見ようとしない。
グシャッと言う鈍い音が聞こえた。
振り返ると、小岩井は頭から血を流し倒れ、川田は灰皿を手に握っていた。
「……ふざけた真似しやがって」
「小岩井が……小岩井が死んじゃう!」
「逃がすか!!」
小岩井は、倒れたまま動かない。
川田は追ってこようとしている。
その手にはナイフが握られている。
「日高さん……ごめんなさい!」
吉田さんは私を引っ張り玄関のカギを開けた。
そして、この血に塗れた家から脱出した。
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