43:思い出の駄菓子
更新遅れてすみません。第43話です。今日も夜更新できるかはわかりませんけど、できたら更新したいな……。とりあえず1話のみ更新ですがお読みいただけましたら幸いです。
月日は流れ、もう2学期が始まっていた。
あれから吉田さんが登校してくることは無かった。
先生も家庭訪問に行ってみたけど、体調不良でしばらく休むとしか聞けなかったらしい。
私達は毎日のように吉田さんの家に来ている。
まだ面会はさせてもらっていない。
あまり大勢で来ても迷惑なので、今日は由美と悠太郎と私の3人で来た。
「何度も来てもらってるのに悪いね。恵利佳が誰にも会いたくないって言うんだよ……」
「そうですか……少しだけでも話ができたらと思ったんですけど」
「本当はそうしてほしいんだけどね。また学校で何かあったのかって聞いても何も言わないし……」
吉田さんのお母さんも、本人からは体調不良で休みたいということ以外は聞いていないようだ。
彼女の心は閉ざされたまま。
このままでは、あの最悪の結末が待っている。
「玲美、また明日にしよう……」
由美がそう言って、帰ろうとした時、吉田さんのお母さんに呼びとめられた。
「せっかくだし、上がっていくかい?」
「いいんですか?」
「ちょっとした荒療治さ。私もこのままじゃいけないって思ってたところだ。悪いけど協力してもらうよ」
私達は、吉田さんの家に上がらせてもらった。
「汚い家で悪いね」
「いえ、そんなことは……」
家が汚いというよりも、中が荒れている感じだ。
ゴミなどは無く部屋も綺麗に片づけられているけど、壁紙は剥がれ、襖も穴が開いている。
お母さんは、私達にお茶を用意してくれた。
「吉田さんは寝てるんですか?」
「いや、起きてると思うよ。ただ、最近は外にも出なくなったから、もやしっ子みたいな感じさ」
「そうですか……」
彼女と初めて会った神社を思い出す。
以前は引きこもっていたとはいえ、散歩くらいはしていたとお母さんが言った。
そのおかげで、神社で彼女と出会えたんだ。
でも、今はそれすらもしていない。
「恵利佳、起きてるんだろ。日高さん達が来てるよ」
お母さんが呼びかけた。
返事は無い。
「この調子さ。ご飯だけは何とか食べさせてるけどね。動いてないから食欲もないみたいだし……どうしたものなんだろうね」
前に来た時は見えなかったけど、お母さんの髪に白髪が混じって見える。
「……私は母親失格だ」
お母さんは、ため息をつきながらお茶を飲んだ。
私達も、せっかくなのでお茶をいただいた。
お母さんはどこからかアルバムを持ってきた。
「うちの子の成長記録だよ。嫌なことも思い出しちまうから見ないようにしてたんだけど、最近はね……よく見てるんだよ」
「私達も見ていいですか?」
「ああいいよ」
アルバムの中の吉田さんは、まだ幼かった。
お母さんに抱っこされて不機嫌そうにしてる写真。
笑顔の写真だ。これは、泥遊びをしているところかな?
どれも可愛らしい愛情の詰まった写真だ。
一部切り取られている部分もある。
たぶん、お父さんが写っていた部分だろう。
「どうだい? 可愛らしいだろ?」
「ええ、とっても可愛いです」
お世辞抜きで可愛い。
幼い頃のの吉田さんは、とても楽しそうな顔で写真に写っている。
「いろいろあってね、写真を残していたのは恵利佳が保育園に入るまでくらいしかないんだよ」
お父さんのせいですよね、と。
思わず言いそうになったけど、それは言わない。
お母さんにとっても辛い過去だ。
むやみに掘り返す必要は無い。
「これ、あの駄菓子屋だ」
悠太郎が指をさした写真には、遠足の時におやつを買いに行った駄菓子屋が写っていた。
きなこの棒を喜んで持っている吉田さん。
「あの子、このきなこの棒が好きでね。小さい頃はよく食べてたんだよ」
「そうなんですか」
「食欲がなくても、これだったら食べてくれるかもしれないねぇ」
「玲美、あの駄菓子屋に行ってみよう」
「これを食べれば、吉田さん元気になるかもしれないよ」
二人とも行く気満々みたいだ。
そういえば、吉田さんはもう長い事遠足にも行ってない。
駄菓子と触れ合う機会すらなかったんだ。
「うん、行こうか」
私達は駄菓子屋に向かうことにした。
この時間ならまだ開いてるはず。
「おばさん、また後で来ますね」
「気を付けるんだよ」
こうして、私達はあの駄菓子屋に向かった。
駄菓子がきっかけで、何か変わるかもしれない。
そんな期待があった。
――――――――――
「恵利佳、聞いてるかい?」
お母さんが話し掛けてくる。
言われなくても聞いていた。
日高さん達が来たと知って、本当はすぐにでも出て行きたい衝動に駆られた。
でも、こんな私が日高さん達の前に立って、何を話せると言うのか。
一度ならず二度までも、彼女達の期待を裏切ったのだ。
その結果がこれだ。
会えるはずが無いし、会う資格もない。
「あの子達、本当にあんたのことを心配してるね。お母さん、わかるよ」
「私は……日高さん達を二度も傷付けてしまった……もう会えないわ……」
「悲劇のヒロイン気取りかい? あんたには言ってなかったけどね、あの子達ここのところ毎日来てるよ」
「え……?」
「あんたが誰にも会いたくないって言うから、断り続けてたんだけどね」
「そう……だったの……」
「あんたが何をそんなに、あの子達に対して悩んでるかわからないけど、良い友達じゃないか」
良い友達……。
私は、まだ日高さんに友達になってと言えないままだった。
彼女は、そんな私を心配して、私が避けようとしていても毎日来てくれている。
「そうそう、お母さんね、あんたの為にちょっと奮発しちゃったよ」
「え?」
「ちょっと出てきてごらん」
テーブルの上には、新しい筆箱があった。
私の使っていた筆箱は既にボロボロだった。
お母さんはそれを知っていたのだろうか。
「どうだい?少しは学校行く気は沸いたかい?」
「お母さん……高かったでしょう?」
「どってことないよ。これであんたが元気が出れば安いもんさ」
お母さんは、そう言いながら私を抱きしめてくれた。
「あんたに掛けてしまった苦労は、これくらいじゃ清算できないからね……」
お母さんの温もりが伝わる。
こうしたのは何年振りだろう。
もう随分昔のことのようだ。
そして、チャイムが響いた。
「お、日高さん達かな?今開けるよ」
「待って、まだ心の準備が……こんなパジャマ姿だし……」
「そんなの気にする子達じゃないよ。ほら、上がって上がって。恵利佳起きてるよ」
「お邪魔します。吉田さん、起きてて平気なの?」
相変わらず、心配そうに見つめてくる日高さん。
あんな酷い態度を取っても、彼女の態度は変わることは無かった。
「うん……大丈夫」
「吉田、お前このきなこ棒好きなんだろ?買って来てやったよ!」
「せっかくだから、みんなで食べようよ。ほら、おばさんも食べましょ?」
「吉田さん、一緒に食べよ」
失った温かさが戻ってくる感じがした。
手足に力が入る。
「……うん」
私は、彼女達の下へ駆けよって行った。
ちなみにきなこ棒は全部外れでした。




