41:担任になって
第41話です。ちょっとがんばって3話更新してみました。よろしくお願いいたします。
私は大島高志。
この春から5年3組の担任を任されることになった。
「じゃあ、これでクラス分けは問題無いですね?」
問題しか無いんですが、それは。
渡された新クラスの学級名簿を見た時は絶望した。
要注意生徒が揃いも揃っていたからだ。
「あら~……大島先生ご愁傷様」
そういうのは5年1組の担任に決まった川島重吾先生だ。
こいつとは昔からうまが合わない。
いちいち人の感情逆なでしやがって……。
「こちらには、優秀な生徒が揃っていますよ~。例えば、佐藤雄介とか……」
「あのしっとりボイスの佐藤か!?」
「合唱コンクールでは彼のソロパートを入れようと思っています」
いや、それは駄目だろう。
「ともかく、お互い2年間担任がんばって行きましょう」
川島先生は言いたいことだけ言って去って行った。
「まぁまぁ、大島先生」
「教頭……」
「遣り甲斐のあるクラスでいいじゃないですか」
「それどころじゃないですよ!見てくださいよこれ、何のオールスターですか!」
教師にすら暴力を振るう成金息子の渡辺謙輔を始め、子分の江藤と坂本、渡辺の許嫁とも噂のある森山加奈。
渡辺一派のフルハウスだ。いや……フォーカードか。
そして、渡辺一派の対抗馬である西田琢也、川田健介。
あと、稀代のアホと噂の小岩井恭佑もいる。
だが、一番の問題は……父親が犯罪者の吉田恵利佳か。
「こんなクラス面倒見切れませんよ!」
「だから、一人優秀な生徒を入れておいたじゃないか。河村智沙とか」
「……これは、正直助かりますけど」
「彼女は凄いぞ。成績優秀なだけでなくピアノも弾ける」
たしかに……これ以上の逸材は居ないだろう。
ピアノを弾ける生徒というのはクラスに必ず必要だ。
その中で彼女を引けたのであれば、これはこれでおいしい。
「で、バランスを取ったらこうなったというわけだ」
「残りが酷過ぎるでしょう!?」
「そうは言っても、決まってしまったものは仕方がない」
ちくしょう、何が新学期だ。
結局俺にばかり面倒な生徒を押しつけてきやがって……。
俺が提出して通った生徒は河村くらいなものだ。
“渡辺フォーカード”なんて書いた覚えないぞ。
これだけでも厄介なのに、吉田恵利佳までいるなんて……どうしたらいいんだ。
「ともかく、頑張って下さい。期待してますよ」
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いよいよ始業式だ。
ああ……気が重い。
校長の話は相変わらず長かった。
何なんだ、校長になるには長話のスキルでも必要なのか。
今年はもう3人倒れたぞ。
そして、話が長くなった原因が、校長の好きだったアイドルグループの話だ。
いつかのお酒の蓋の話よりはマシだが、子供達みんなポカーンとしてるじゃないか。
お前の時代のアイドルなんて、俺でもよくわからんぞ。
始業式も終わって自己紹介だ。
新クラスの恒例だからな。
渡辺一派は早速問題を起こしてくれた。
たかだか自己紹介で何であんなに暴れられる?
あいつら、絶対成人したら成人式で勘違いして暴れるタイプだな。
めんどくさい、とりあえずお前ら渡辺にヨロシクしとけ。
******
やる気をすっかり無くしていた俺。
そんな俺に、職員室のマドンナで5年2組の担任、中山恵子先生が話し掛けてきた。
「大変そうですね、大島先生」
「そんなことないですよ! ……と、恰好付けたい所ですが、色々ありまして……」
「渡辺君達ですか?」
「それもありますけど、あの吉田のことです」
「吉田さんですか。彼女はまぁ……可哀想ではありますけど……」
「早速いじめが起こっていましてね。また登校拒否になるのも時間の問題です」
「誰がいじめてるんですか?」
「たぶん、渡辺達だと思いますよ。あー……登校拒否になられたら、家に行ったりしないといけないし……」
「大島先生、何とかなりませんか?」
「何とかと言われても……渡辺の親は、あの恐ろしい親父さんいますし……」
「吉田さんの場合は特殊な境遇とはいえ、それが元でいじめられ続けるのは可哀想だと思います」
「まぁ……そうなんですけどね」
人ごとだと思って……。
いくらマドンナの中山先生でも、ちょっとイラっとしてしまう。
あのクラス受け持ってみろよ。
俺はもう胃薬が市販薬じゃ効かなくて、病院で処方されたのを飲まなきゃやってられないんだぞ。
「実は私……クラス替えの名簿、吉田さんの名前を書いて提出してたんです」
「え?」
「だって、可哀想じゃありませんか。幸い、私の選んだ生徒達にいじめを起こしそうな生徒は少なかったので、こちらで引き取って最後の2年くらいは穏やかに過ごさせてあげようと思ってたんです」
「そうだったんですか……」
「でも、大島先生の所に行ってしまいましたね。きっと私は期待されていなかったんです」
「お、私が……期待されていると?」
「そうじゃありませんか。問題児を一堂に会して、それでも大島先生なら何とかしてくれる……そういう期待の表れですよ」
俺が……期待されている?
「吉田さんのことは、私も協力します。どうか、生徒達を正しく導いてあげてください」
******
そうは言ってもなぁ……。
教室へ向かう足取りは重い。
吉田も体調不良で休むって連絡あったし、登校拒否じゃ無ければいいけどな……。
そんな朝のことだ。
渡辺達が俺の所へやってきた。
「先生、花瓶を割ってしまいました!すみませんでした!」
花瓶?
ああ、怪我してないならそれでいいよ。
どうせ経費だ。
それより、今、渡辺が俺に謝ってきた?
しかも敬語を使って?
「つ、次から気を付けなさい。怪我は無いんだな?」
「はい、大丈夫です!本当にすみませんでした!」
どうなってるんだ一体……?
「大島先生」
「ああ、中山先生」
「渡辺君が先生に対して謝ってるところ、初めて見ました」
「ええ……私もびっくりです」
「先生の誠意が通じたんじゃないですか?」
「いえいえ、私は何もしていません。あいつも成長したんじゃないでしょうか」
「フフッ、そこは嘘でも私の手柄だーって言ってしまってもいいんですよ」
「私は自分がしてもいないことをそう言える程、横柄な男ではありませんよ」
「誰かのことを言ってるみたいですね」
「さあてね」
どこかでクシャミが聞こえたような気がした。
それにしても、渡辺もああやって謝ったりできるんだな。
思えば私は新任してから、生徒達を見た目ばかりで判断して、全く見ようとしなかった。
「私は大馬鹿です」
「どうなさったんです?急に」
「教師として大切な事を、生徒から教えられたんです」
「教師だって人間ですもの。そうやって、日々成長していくものですよ」
「これからは、生徒とちゃんと向き合っていこうと思います。今更ですけどね」
「まだ、間に合いますよ」
これからは、嫌な事から逃げるのはやめよう。
諦めて不貞腐れるなんてやめよう。
生徒達が頼ってくれる、本当の意味での先生を目指そう。
さあ、私の大切な生徒達が待っている。
今日も一日頑張ろう。
クラス編成を予定と変えたのは、この話を入れようと思ったからです。生徒の分け方には学校ごとに多少違うみたいですけど、ある程度決まりがあるそうですね。その中には、仲が良過ぎる生徒はあえて分けるという話もありました。
マドンナ先生という言葉は、某妖怪教師のマンガを読んだ影響だと思います。
※ここまでの登場人物のメモを活動報告にまとめてみました※




