40:人を好きになるということ
第40話です。よろしくお願いいたします。
どうしようか、この状況……。
「……すぐ返事しないと駄目かな?」
何も言わずに頷く悠太郎。
今は、これからのことで頭がいっぱいだ。
全部終わってからじゃ駄目かな……そうしたら、私も考えられるようになるかもしれない。
この戦いが終わったら、私達付き合うんだ……あ、嫌なフラグになっちゃうか。
「吉田のことで頭がいっぱいなのはわかってる。でも……河村達との戦いが始まる前に、オレのモチベーションを保つためにも……玲美の返事がほしい」
それもフラグのような……じゃなくて、そんなこと言われたら断れないじゃん。
もしこれで私が断ったりしたら、モチベーション下がりまくりだし。
断る……? いつの間にか、断る前提で考えてたけど、私は悠太郎のことを嫌いなのだろうか?
「私なんかよりも綺麗な子いっぱいいるじゃん。由美もそうだし、森山さんとか橋本さんとか……」
「そうじゃないんだ。オレは、お前じゃないと……」
「私なんかのどこがいいの?」
つい、よくある言葉を使ってしまった。
だって意味がわからない。
顔だってお世辞にも綺麗じゃない。背だって低い。そのくせ、自分で言うのもなんだけど暴走ポメラニアンだ。
女らしさで言ったら他の子の方が全然上。
これだけは前世の影響かもしれない。
「友達思いなところで優しいところ、曲がったところが嫌いなところ、強がってるけど本当は泣き虫なところ」
「泣き虫じゃないです」
「人に流されずしっかりとした自分を持っているところとか……他にもいっぱいある」
「う……買いかぶり過ぎだと思うけど……」
「今まで会ってきた女子達は、みんなオレの外面ばかり見て、誰も内面を見ようとしなかった」
「ファンクラブあるくらいだもんね……」
「お前はちゃんとオレの内面を見てくれた。朱音の時も、言いすぎたオレを叱ってくれた」
「それはさ、たぶんだけど、今まで悠太郎が私みたいなのに会わなかったから、ちょっと物珍しさに興味が沸いただけなんじゃないかな?」
「そんなんじゃない。お前とクラスが別れてしまって、オレがどれだけ寂しかったかわかるか?」
「そ、それも友達と離れてしまったっていう……」
「琢也や順にも嫉妬した。どちらかオレと代わってくれと思ったよ」
そう言われても……頭がうまく回らなくなってきた。
何だこれ……体温も熱くなってきた。
まだ暑いとはいっても、どうしてこんなにもポカポカするんだろう……。
「お前の、その真っ直ぐ見つめてくる大きな目も好きだ」
よく蚊とか虫が入ってきて困ってます。
……こんなに人にいろいろ褒められたの初めてで、どうしたらいいのかわかんない。
「あの賭け……覚えてるか?」
あの賭け?
もしかして……あの時のボウリングの?
「まだ賞品もらってないよな」
「あれは……謙輔が勝手に言いだしたことだし……」
「……駄目か」
「い……今は駄目、頭パンクしそうだし」
「そっか、勇気出したんだけどな……ごめん、急かせ過ぎた」
悠太郎は項垂れてしまった。
急に色々言われても困るよ。心の準備とか……。
「もうすぐ着いちゃうな……お前んちに自転車置くのも今日までか」
「ちょっと待って」
「ん?」
「別に、悠太郎のことは嫌いじゃない……色々言われて、わけがわからないだけ……」
「それは……いや、お前の気持ちも考えず悪かった」
「まだ恋とかしたことも無いし……今は吉田さんのことで手一杯だから……悠太郎がいろいろ私に教えてくれたらいいじゃん」
「それって、つまり?」
「私も、悠太郎のことは好きだよ……よくわかんないけど……」
「マジか」
「マジです」
「じゃあ、賭けの賞品を……」
「それは、まだ嫌です」
「酷い」
よくわかんないけど、私にとってもこうするのが良いんだろう。たぶん。
だからと言って、デートなんてしてる暇無いし、そういうのは吉田さんを救った後の話だ。
「まずは、吉田さんを救うこと優先だからね」
「それは百も承知だ。そこまでオレも馬鹿じゃないよ」
******
家に着いてから、悠太郎はお母さんに挨拶してすぐに帰って行った。
部屋に戻ってメモが入っていたあの箱を開けた。
もう、メモは入っていない。
前世の私が描いたという、お父さんとお母さんの絵は残ったままだった。
これを、彼はどんな気持ちで描いたのだろうか。
それを知る術はもうない。
絵の中のお父さんとお母さんは笑っている。
温かみのある笑顔のお父さんとお母さん。
きっと、彼は二人を大好きだったんだ。
生まれ変わって、私になる直前、自分が自分じゃ無くなっていく。
彼の人格は消され、私という新しい人格が生まれる。
怖かったんだと思う。
だから、彼は温もりを忘れないために、自分が居たという証を残すためにこの絵を描いたんじゃないかな。
今思えば、前世の記憶の中の彼は、あの日の夢に出てきた男性にそっくりだ。
私が物心ついてしまってからも、記憶のどこかに残ってずっと見守っていてくれたんだ。
大丈夫、きっと吉田さんは私達が救うよ。
そして、あなたと吉田さんの最後の願い、“また友達に”という想いは私が引き継ぐ。
もうすぐ2学期だ。
私というイレギュラーのせいか、状況はあなたの居た時代と全然違ってしまっている。
もしかしたら、5年生が終わるまででは間に合わないかもしれない。
それに、きっと遅れれば遅れるほど、吉田さんの心の傷は広がって取り返しがつかなくなってしまう気がする。
遅くても、2学期が終わるまでが勝負だ。
それまでに河村さんを断罪し、学校から吉田さんに対するいじめを無くす。
難しいと思う?
私はそうは思わないよ。
だって、ほら。
あなたは一人で戦ってきたけど、今の私には仲間が大勢いる。
だから、大丈夫。
私達は、前世のあなたと吉田さんが無くしてしまった大切な過去を、きっと取り戻して見せる。
リア充爆発s……何でもないです。そして、見方によってはBLです。(ようやくタグ回収)




