36:キャンプファイヤー
第36話です。よろしくお願いいたします。
アユのつかみ取りは、大盛況だ。
みんな大はしゃぎで捕まえている。
謙輔は、アユを持って森山さんを追いかけまわしていた。
あんなことしてるからトラウマになるんだよ。
私も2匹捕まえた。
端っこの方に追い込まないとなかなか捕まえれないね。
そういえば、アユっていい香りするって聞いたな。
匂いをかいでみると、なんだか瓜?のような香りがする。
あんまり好きな匂いじゃないです……。
「そろそろ焼けたか?」
焼くのは琢也が中心になって行った。
塩を振って焼くだけの簡単な料理。
「俺食ってみたい!」
「焼けたばっかだから火傷すんなよ」
そう言って謙輔に渡す。
お兄ちゃんと弟のようだ。
「お、結構うまいぞ!」
「魚は苦手ですわ……」
「好き嫌いなく食べないと大きくならないぞ。 ……胸とか」
森山さんの逆鱗に触れたようで、謙輔をバシバシ叩き出した。
とりあえず、私も参加しようか?
「わ、悪かった悪かった。でもせっかく来たんだし、食ってみろ。ほら」
身を剥がして森山さんに食べさせようとする謙輔。
嫌がる森山さん。
なぜか物欲しそうに口を開けている渡瀬さん。
「もう1匹焼けたぞ。次は誰が食べる?玲美食べるか?」
「琢也も食べたいでしょ?焼くの変わろうか?」
「いやいいよ。俺1匹も捕まえられなかったしな……」
ちょっとおデブさんの琢也には、アユのスピードはきつかったかもしれない。
気にせず食べればいいのに。
「私はまだいいから、江藤君食べないの?」
「俺も実は魚苦手なんだ……」
さっきから静かだと思ったら、そういうことだったらしい。
しょうがないから私がいただいておきます。
初めて食べるけど、どんな味かな?
「おいしいね!」
塩加減がほどよく、皮もちゃんと火が通っていておいしいね。
サバとかシャケも好きだけど、アユってこんなにさっぱりした味なんだ。
「うげっ!何か苦いぞ……」
「渡辺、お前内臓食ったな?」
私も内臓食べてみようかなって思ってたけど、謙輔の反応見る限りやめておいた方が良さそうだ。
私達がおいしそうに食べてたら、森山さんも江藤も食べる気になったみたい。
食べてみたらおいしいって喜んでた。
食わず嫌いは良くないね。
こうして、アユのつかみ取りは大盛況のまま終了した。
******
そして、キャンプ最後の夜。
いよいよキャンプファイヤーだ。
暗闇に照らされる炎は綺麗で、火の粉はまるで蛍のようにも見えた。
幻想的な雰囲気の中流れ出す音楽。
男子も女子も騒ぎ出す。
ああ、あれか。伝説か。
私はこうやって炎を見てるだけでも充分なんだけどな。
「玲美、行こうぜ」
謙輔だ。
あの伝説を信じてるのかな。
それこそ子供だましだと思うよ。
「もうちょっと、こうしてる……」
吉田さんも見たかっただろうな。
小学校のキャンプは1回切りだ。
感じ方は人それぞれだと思うけど、どんな形でもきっと大切な思い出として残っていくのだろう。
それが、こんな結果になってしまった。
「わ、渡辺君……私と踊ってください!お願いします!」
結局、渡瀬さんの必死のお願いを断り切れず、謙輔は出て行った。
あいつもなんだかんだで結構面倒見がいい。
森山さんは悠太郎を探しに行ったみたいだ。
たぶん、あいつも今頃、ファンクラブの方々に囲まれて大変なんだろうな。
「お前は行かないのか?」
琢也が心配して聞いてきた。
「私はいいよ。こうしてみんなが踊ってるのを見てる」
「こんなに騒げるのは今だけだ。6年生になったら、修学旅行はあるけど馬鹿騒ぎできるような行事でもないしな。楽しまなきゃ損だぞ」
「おっさんみたいなこと言うね」
「俺はまだ10歳だ」
「吉田さん……せっかく来たのに、私だけ楽しむなんて……」
「そんなことだろうと思ったけどな……くよくよしてたって、何もいいこと無いぞ。気分転換も兼ねて行って来い」
「琢也は行かないの?」
「そろそろあいつのところ行ってくるよ。お前が何となく元気無いから、心配で見てたんだ」
「そっか……ありがとう。ごめんね」
「気にすんな。お、お迎えが来たみたいだぜ。行ってやれ」
振り返ると、そこには息を切らせて悠太郎が居た。
「全く……あいつらしつこくてさ、逃げ切るのに苦労したよ」
ファンクラブから逃げてきたのか。
片手を上げて去って行く琢也。
「さてと……お待たせしました姫。オレと踊ってくれますか?」
「王子様気どり? 汗だくだし、変なの」
「そう言うなよ……ここまで来るの結構大変だったんだ」
「……じゃあ、王子様。踊りましょうか」
悠太郎は私の手を取り走り出した。
そういえば、男子と手を繋いだのって初めてだ。
……そうでもないか。小さい頃は小岩井ともよく手を繋いでたっけ。
思った以上になんかゴツゴツした手。それに、大きい。
ちょっとお父さんの手みたいだ。
流れるフォークダンスに合わせて踊る。
ゆったりリズムは私の焦る気持ちを落ち着かせてくれた。
背中にかかる手のぬくもりが、安心感を与えてくれているような気がする。
「その髪型」
「ん?」
「あの遠足の時を思い出すな」
「ああ、そういえばあの時以来だね」
普段はあんまり縛ったりせずピンで留めてるだけなんだけど、今日はアユのつかみ取りがあったから縛ってたんだっけ。
「あ、玲美!伊藤……てめー!!」
謙輔に見つかった。
腕には渡瀬さんがしがみついている。
なんかのマスコットみたいだ。
なんだっけ。
彼女は自分の武器を惜しみなく使いつつ、謙輔を逃すまいと必死だ。
「渡辺君、まだダンスの最中ですよ」
「お、俺は玲美と……」
「お願いです!何でもしますからちゃんと最後まで踊ってください!」
ん……? 今何でもと……
いやいや、女の子は簡単にそういうこと言っちゃ駄目ですよ。
「仕方ねえな……おい、伊藤!次、俺と代われよ!」
「はいはい」
そして、音楽が鳴りやんだ。
「終わっちゃったね」
「ほんとだ」
「おい……俺とのダンスは!?」
謙輔が何か言ってるけど、終わってしまったのは仕方がない。
さて、次だ次。
キャンプファイヤーの最後を飾る大合唱。
スイカが食べたくなってきた。
ここって名産地だっけ?
山の子を称える歌も歌った。
そして、ラストはしんみりした佐藤君の独唱から始まるあの歌。
響き渡るそのしんみりした歌声は、まさに最後の夜を飾るにふさわしい歌声だった。
私達も合いの手を入れるんだけど、いつの間にかそれすらも忘れてしまうほど、みんな佐藤君の歌声に聞き惚れていた。
そして、いつの間にか、みんな泣いていた。
歌い切った佐藤君に、惜しみない拍手が注がれる。
ありがとう佐藤君。
あなたのしんみりした歌声を、私達は卒業しても忘れないだろう。
お読みいただきありがとうございます。もし至らない点がありましたら改善していきたいと思いますので、遠慮なくお申し付けください。
次回、ようやくあの話の(2)です。




