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35:晴れない疑念

第35話です。よろしくお願いいたします。

「吉田さんが1年生の時転校してきた話は知ってますか?」


「うん、それは聞いてる。それからすぐにいじめにあったことも」


「そうですか。そのいじめにあっていた吉田さんを助けたのが、河村さんです」


「助けた?」


「正確に言えば、友達になって吉田さんを庇い始めたんです」


「あいつ、いい奴ってこと?」


 私がやろうとしてたことを、河村さんは既にやっていた?

 野村さんの言うように、いい奴……なのか?


「それからは吉田さんも明るくなって」


――――――ァァァァ


「何、今の声!?」


 何か悲鳴のような声が聞こえた。


「悲鳴のように聞こえましたわ……」


「そういえば先輩から聞いたんだけど、ここって出るらしいよ」


「か、勘弁してくださいまし!」


 森山さんの口調がよくわからなくなってる。

 怖がりが居るんだから、そういうこと言わないであげて。

 それにしても、今の声……何か胸騒ぎがする……。


「……私ちょっと見てくる」


「駄目だよ日高さん!危ないよ!」


 野村さんの制止も構わず、私はテントを飛び出した。



******



 どこから聞こえたんだろう。

 たしかこっち?トイレがある方だ。


 あれは……誰かいる。

 謙輔達?それに河村さんも……?

 先生達もいるみたいだ。


「あ、玲美か。叫び声が聞こえて来たら、吉田がトイレで倒れてたんだ」


「どういうこと!?」


「で、出たんじゃないのか……?」


 琢也は相変わらずお化けを怖がっていた。

 そんなのいるわけないでしょうが。


「先生、吉田さん大丈夫なんですか?」


 吉田さんは保健の霧島先生に介抱されていた。

 顔色が酷く悪い。


「脱水症状かもしれないわ。吐いた痕跡があったから」


「吐いた?どうして……」


「馴れないキャンプで、ストレスからこうなってしまう子もいるの」


「河村さん、何か知ってる?」


「私も今、先生に呼ばれてきたばかりだから……よく見ていれば良かったわ……」


 河村さんもわからないらしい。

 ストレスで吐いたにしたって、あんな叫び声上げる?


「だから、出たんだって」


「ちょっと黙ってて」


 怖がりの琢也は置いといて、何か引っかかるんだけど……。


「吉田は様子を見て家に帰すか。朝になったら先生が家まで送って行こう」


「そんな……」


「申し訳ありません、先生。うちの班の者が……」


「何、気にやむことは無い。毎年こういう生徒が一人は出るもんだよ」


「吉田さん……体調悪いのに、無理してたの?」


「あとは私と大島先生に任せて、あなた達は早く戻りなさい。トイレだったら、センターの方にもあるからそっちを使って」


「それでは先生……すみませんが吉田さんをよろしくお願いします」


「任せておきなさい。河村は一応班の者達にこの事を伝えておいてくれ。渡辺達も、いつまでも夜更かしせずに早く寝なさい」


 私達は解散しテントに戻った。

 吉田さん大丈夫なんだろうか。

 せっかくキャンプに来たのに、こんなことになってしまって……。



******



 翌日、先生は吉田さんを送って行ってしまった。

 体調は今朝も優れていなかったらしい。


「吉田さん可哀想ですわね」


「霧島先生が言うにはストレスによる過敏性胃腸炎だろうってことだけど……」


「私もちょっと胃の辺りがキリキリします」


 そういうもんなんだろうか。

 私は全然何とも無いんだけど、他にも数人そういう子いるみたいだし。

 ホームシックになって、家にこっそり電話してる子もいたって言うし。


「まぁ、気を取り直して吉田さんの分も私達はキャンプを楽しみましょ」


「今夜はいよいよキャンプファイヤーがありますもんね!楽しみです!」


 ああそっか、キャンプファイヤーあったね。

 でも、なんだか楽しむ気にはなれない。


「日高さん、そんな暗い顔してたら駄目ですわよ」


「あ、うん……そうだね」


「今日はアユの掴み取りもあるんですよ!楽しみですね!イベントいっぱいです!」


「生魚は……苦手ですわ」


 そういえばそんなこと言ってたっけ。

 車に酔ってるからそう言ってるだけかと思ってたよ。


「ちゃんと焼くから大丈夫だよ」


「触るとヌメヌメしますでしょ?」


「魚は大体ヌメヌメしてるよ?」


 森山さんはヌメヌメが苦手なのか。

 私もあんまり好きじゃないけど、そんなこと言ってたらお魚調理できないよ。


「おう、おはよう」


 謙輔達もやってきた。


「吉田のことは残念だったな……」


 謙輔も思うところはあるような感じだ。

 前にあんなことあったけど、吉田さんのこと気にかけてくれてる。


「そういえば、その吉田さんのことなんだけど」


「どうした?」


「渡瀬さんがさ、1年の時、河村さんと同じクラスだったんだって」


「ほう。それは初耳だな」


「昨晩その話してたんだけど、あんなことがあったから……ごめんねせっかく話してくれてたのに」


「何でしたら、今夜続きお話しますけど……」


「それだと玲美達しか聞けないな。キャンプから帰ったら、うちで集まってから話そう」


「謙輔……あんなことあったのに、いいの?」


「お前のことだから、ずっと吉田のこと気にしてると思ってたよ。昨晩のことは俺もおかしいと思ってるし」


「あ、あの、私も渡辺君のおうちに行っていいんですか!?」


「渡瀬が来ないと話にならないだろ」


「わ、私……何でも話します!何でも聞いてください!」


「わかった。わかったから、落ち着いてくれ」


 渡瀬さん、たぶん謙輔のこと好きだな。

 それはそれとして、あの二人に何があったのかは私も気になる。

 昨日の態度を見る限り、吉田さんに何かしたようには見えなかったけど、メモのこともあるからいまいち信用できない。


 そうだ、メモのこともあった。

 悠太郎の言うように、謙輔達にも話してしまった方がいいんだろうか。

ブクマ感謝です。お読みいただきありがとうございます。

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