33:カレーライス
第33話です。ネタバレになってしまいますが、一部グロテスクな表現があります。苦手な方はお気を付けください。
キャンプと言えば飯盒炊爨。
早速調理に取り掛かります。
とりあえず、森山さんと渡瀬さんにはジャガイモの皮を剥いてもらおうかな。
「任せてちょうだい!」
「がんばります!」
私はその間に、人参と玉ねぎの皮を剥いて刻んでいく。
カレーを作るのはそんなに難しくないので、野菜さえ刻み終わったらあとは簡単です。
そろそろ二人もジャガイモ剥き終わった頃かな?
「思ったより難しいですわね……」
結構大きかったジャガイモが、めっちゃ小さい四角形になってる。
皮を剥くのに包丁を両手持ちしている人、初めて見たかも。
「がんばりました!」
渡瀬さんの剥いたジャガイモは、皮と芽があちこちに残っている。
ジャガイモの芽って毒なんだけど。
しかも、二人とも、これだけかかって1個ずつしか剥けていない。
「何やってんの……」
「「え?」」
仕方ないので残りは私がやりました。
カレーは順調に仕上がったので、あとはご飯の方だね。
謙輔達に任せてたけど、大丈夫かな?
「焦げた」
何やってんだあんたら。
「手順通りにやったんだけど、いったい何がいけなかったのか」
「ま、まぁ……焦げた部分を取り除けば何とか……」
こうして一応カレーライスは完成した。
「なかなかうまいな」
「がんばりましたもの」
あんたジャガイモでサイコロ1個作っただけじゃないか。
「日高さん、料理お上手でしたね」
「お前料理できたのか」
失礼な。
こう見えて、家でもちゃんと手伝ってますよ。
琢也は食べ足りないみたいだったけど、ご飯も焦げちゃってたし仕方ないよね。
ご飯が固くて食べにくかったけど、みんなで食べるカレーはそれなりにおいしかった。
吉田さんも、ちゃんと楽しめてるだろうか。
――――――――――――
――――――
――
「さ、私達も食べましょうか」
「……手伝わなくて本当によかったの?」
「恵利佳は大事な友達だもの。そんな恵利佳に手伝わせるわけには、ねえ?」
智沙は、私に一切の手伝いをさせなかった。
今までのお詫びに私に手料理を食べさせたいと、一人でカレーを作っていた。
そして、今ここに智沙の用意したカレーが置かれていた。
「恵利佳のために、栄養バランスを考えて作ったのよ」
智沙は、まるで初めて会ったあの日のような笑顔で私に言った。
何か変なものが入ってるんじゃないだろうか……いや、勘ぐり過ぎか。
彼女は生まれ変わると言っていた。
そして、私と和解したいと。
彼女は私がまた友達になれば、日高さん達に対する嫌がらせをやめさせると言ってきた。
そして、私に対してのいじめも解決できると言ってきた。
小岩井君達を仲間に引き入れたのは、そういった勢力を押さえつけるためだったらしい。
彼女の言うとおり、日高さん達への嫌がらせも、私へのいじめも翌日からピタッと収まった。
カレーにはエビのようなものも入っていた。
シーフードカレーにしたのだろうか。
「どう?恵利佳、私の作った栄養満点のカレーは美味しい?」
「……ええ」
「良かったわ。 気に入ってもらえたみたいで」
「イヒヒ……どんどん食えよ!智沙のカレーは栄養たっぷりだからな!」
小岩井君はちょっと苦手だ。
日高さんの幼馴染らしいんだけど、私は好きになれそうもない。
厭らしい顔付で笑うその姿は、何とも言えない不快なものがある。
日高さん達は楽しくやってるだろうか。
せっかく友達になれると思っていたのに、こんな形で別れることになってしまった。
渡辺君達にも悪いことをした。
短い間だったけど、彼女達と居て本当に楽しい思い出が作れた。
でも、そのせいで彼女達が辛い思いをするのは耐えられない。
智沙はこうして私とまた友達になってくれた。
周りの人間はちょっと癖のある人達ばかりだけど、一応は良くしてくれている。
でも、日高さん達と一緒に居た時のような温かさは感じられなかった。
そこまで考えて、あの日、私がしてしまったことの重さを再認識した。
もう、あの日々は戻ってこないんだ。
――
――――――
――――――――――――
さて、カレーも食べ終わったし、次は肝試しか。
先生達が慌ただしく動いている。
お化けの準備に行くんですね。
大島先生が白い大きな布を持ってるので、何に使うのかがだいたいわかってしまう。
「女子達は安心してくれ!お化けからは俺が絶対守ってやる!」
「渡辺様、頼りにしてますわ」
「わ、渡辺君、私も守ってね……」
いったい彼は、彼女達を何から守ると言うのだろう。
「お、お化けなんて怖くないからな!」
琢也、あんたは謙輔に守ってもらった方がいいんじゃないのか?
「絶対カブトムシ捕まえるぜ」
江藤はカブトムシばっかだな。
夜中に出歩いちゃ駄目だって言われてたじゃないか。
******
「結構雰囲気出てるな……」
肝試しの会場は、急造とは思えないほどうまくできていた。
先生達がんばりすぎでしょう。
「あ、あそこ!何かいますよ!」
うん、1組の川島先生が提灯を釣り竿で操ってるね。
「ひぃ!何か横切りましたわ!」
それ、お化けじゃなくて琢也。
めっちゃ早足で進んでる。
「これ作るの大変だったろうね」
「お前も少しは怖がれよ」
怖くないものを怖がれと言われてもなぁ。
先生達がやってるってわかってるからね。
「「「キャーッ!!」」」
前を行く班の子達の叫び声が聞こえてきた。
この先にそんなに怖いものがあるの?
「渡辺様……怖いですわ……」
「も、洩らしちゃうかもです!」
それは流石にやめてください。
「引き返そうぜ……嫌な予感がする……」
琢也は何でそんなに汗を掻いてるんだ。
こんなの作り物じゃん。
「声のした場所はもうすぐだ」
「どうせ先生でしょ?」
「いや、きっと本当に出たんだよ……」
「琢也、ビビり過ぎ」
角を曲がると井戸が見えた。
ああ、たぶんここに潜んでるな。
「何にもなかったな」
あれ?通り過ぎちゃったよ。
ただの飾りだったのかな?
そう思った時だった。
「う~ら~め~し~い~~~~」
背後から声が聞こえた。
そこには、かつらを被り白塗りして三角巾を付けた大島先生が立っていた。
「「キャーーーー!!」」
「うぉああああ!!」
叫ぶ女子と琢也。
あれ、大島先生だよ?
「お~ま~え~た~ち~~~~」
そう言いながら猛ダッシュで走ってくる大島先生。
ある意味怖い。
「に、逃げろー!!」
謙輔達は走り出してしまった。
「え、ちょっと待ってよ」
「つ~か~ま~え~た~ら~~お尻ペンペンの刑だーーーーッ!!」
「そ、それは私も嫌だ!」
「逃がさんぞぉぉおおおお!!」
お化けは怖くないけど、何か怒り狂って私達を追いかけてくる大島先生。
特に謙輔を狙っているようで、ものすごい速さで追いかけている。
「な、何で俺を追ってくるんだよー!!」
「お前が迷惑ばかりかけるからだろうがぁぁああああ!!」
こうして、私怨だらけの肝試しは終わった。
無事謙輔は、お尻ペンペンの刑に処されたのだった。
飯盒炊爨にルビが振ってありますが、重要人物ではありません。




