32:野外キャンプへ
第32話です。よろしくお願いいたします。
今日から野外キャンプ。
学校行事では初めてのお泊まりだ。
私達の班には、吉田さんの代わりに渡瀬聖子さんが加わった。
あんまり面識の無い子だったけど、ずっと残ってしまっていたところを謙輔が班に加えた。
謙輔も結構いいところあるじゃん。
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バスは私達を乗せて走る。
座席は一番後ろを謙輔が陣取った。
すっかり、クラスでの力関係は最初の頃に戻っていたようだ。
そして、ボウリングの時のように私と森山さんを横に座らせる。
今は別に、謙輔のことを大っ嫌いというわけじゃないからいいんだけどさ。
「キャンプ場早く着かねえかな」
「まだ走り出したばっかりでしょ?」
謙輔は落ち着きが無い。
そんなにキャンプ楽しみだったのか。
「謙輔さん、絶対カブトムシ取りに行きましょうね!」
「西田、捕まえたカブトムシで戦わせようぜ!」
「あんまり夜中に出歩くと先生に叱られるぞ?まぁ行くけどさ」
「騒々しくて眠れませんわ……」
はしゃぐ男子達。
そして、ぐったりしてる森山さん。
たぶん酔ってる。
「そういえば、肝試しあるんだよな」
「どうせ先生達が化けてるだけだよ」
「そういうことを言うもんじゃないぞ、玲美」
「渡辺様……ちょっと窓際に行ってもよろしいかしら……」
あ、限界っぽい。
渡瀬さんと席を交代して窓側に行く。
大丈夫かな、森山さん。
「おう、楽しんでるか?渡瀬」
渡瀬さんはおどおどしてる。
最初の頃の順もこんな感じだったな。
「あの……とっても楽しいです。私なんかがこんな楽しんでいいんでしょうか……」
渡瀬さん楽しいんだ。
ずっと黙ってるから嫌がってるのかと思ってたよ。
「せっかく、こうやってみんなでキャンプ行けるんだ。楽しまなきゃ損だろ?」
「そ、そうですね……あの、私なんかを班に入れてくれてありがとうございます」
「こっちの都合もあったしな。だからと言って、そんなに自分を卑下する必要無いと思うぞ」
謙輔は優しく渡瀬さんの頭を撫でて言った。
こいつ、ほんとに変わったな。
最初の暴君みたいだった頃が嘘のようだ。
渡瀬さんは、ショートヘアのちょっと気が弱そうな子。
なんと私よりも背が低い希少な女の子だ。
なかなかクラスに馴染めずにいたようで、仲のいい友達もいなかったみたい。
数合わせとはいえ、謙輔に班に誘って貰えたのがよっぽど嬉しかったようだ。
おどおどしながらも、感謝の気持ちを一生懸命伝えていた。
「えー、5年3組のみなさん、おはようございます。バスガイドを務めさせていただきます、田中由梨絵と申します」
「彼氏いるんスかー!?」
「何歳なんですかー!?」
「付き合ってください!!」
男子達が一斉に騒ぎ出す。
綺麗な人だもんね。
上品な感じするし、大人の魅力って感じするよ。
謙輔は意外なことに興味ないみたい。
こういう時一番に大騒ぎする奴だと思ってたんだけどね。
「アハハ、元気があっていいですねー。残念ながら、彼氏持ちでーす!」
落胆する男子達。
あれ?大島先生も何でしょんぼりしてるんですか?
「今日みなさんが行くところは、昔から続く伝統あるキャンプ場です。鮎の養殖にも力を入れてるんですよ」
鮎か。 テレビでは見たことあるけど、食べたことないな。
「鮎……お魚苦手ですわ……ウプッ」
「森山さん、大丈夫? 袋用意しようか?」
「よろしくてよ……」
この場合どっちだ。
とりあえず、前の席に行った方がいいんじゃない?
「そして、このキャンプ場にはとある伝説がありまして、キャンプファイヤーで一緒にフォークダンスを踊った男女は結ばれると言われてます!」
「マジで!?」
「私、竹内君と踊るから!!」
「私は高橋君がいい!!」
今度は女子が騒ぎ出す。
みんなこういうの好きだよね。
名前を言われた竹内君と高橋君は男子にちゃかされている。
結ばれるって、小学生のうちから何言ってんだか。
そういえば、キャンプファイヤーで歌う謎の歌の予行練習もあったっけ。
代表で歌うのは、しんみりした歌を歌わせたら定評があるという5年1組の佐藤君だ。
何度もやり直しさせられたけど、その度にしんみりさせられた。
「玲美、一緒に踊ろうな?」
「んー、遠慮しとく」
しょんぼりする謙輔。
伝説を信じてるわけじゃないけど、一緒に踊って、クラスメイトに噂とかされたら恥ずかしいし。
なんて、どこかで聞いたようなフレーズを思い浮かべていたらパーキングエリアに着いたみたいだ。
一目散にみんな出て行く。
座りっぱなしはしんどいし、私も外に出ようかな。
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「生き返りましたわ……」
「またバスに乗るんだけどな」
「保健の先生に酔い止め貰ってきたら?」
「そうしますわ……」
森山さんはふらふらと歩いて行った。
そうこうしてるうちに女子トイレめっちゃ並んでるし。
まだ先は長いみたいだから、私も行っとかなきゃ。
こうして、休憩時間はトイレに行っただけで終わってしまった。
謙輔達の話によると、展望台があったみたい。
いい景色だったって言ってた。
私も景色見てみたかったな。
順番割りこんできたおばちゃん集団さえいなければ……。
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「お薬効いてきませんわぁ……」
バスが走り出すと、また森山さんがダウンした。
じきに効いてくると思うんだけどね。
キャンプか……吉田さん、ちゃんと楽しめるのかな……。
前の方に座ってる吉田さんを見る。
その表情はこちらからは見えないけど、何となく楽しそうにしてるようには見えない。
バスは、どんどん走る。
いつの間にか薬が効いてきたのか、森山さんはスヤスヤと眠っていた。
謙輔と江藤は、キャンプの予定を話し合っていた。
渡瀬さんは一生懸命に謙輔の話を聞いていた。
長い林道を抜け、ようやくバスはキャンプ場に着いた。
カブトムシにスイカを食べさせるのはよくないらしいですよ。




