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30:いじめが消えた?

第30話です。読んでいただけましたら幸いです。

 朝、いつも通り悠太郎が来た。


「どうした?元気無いな」


「そう……?」


 悠太郎の言うとおり、元気が出ない。

 昨日もろくに寝てないし、何もかもやる気が出なくなってしまった。


「あれ?吉田の家には行かないのか?」


 そういえば、悠太郎に言うの忘れてたね。

 もう行かなくていいんだった。


「ごめんね、もう行く必要無くなっちゃった」


「何かあったのか?」


「……うん」


「言ってくれ」


 私は、昨日起こったことをそのまま話した。

 たぶん、吉田さんは何か言われて私達を庇おうとしていることも含めて。


「んー……たぶん、玲美の思ってる通りだと、オレも思う」


「だけど、謙輔も怒っちゃったし、私一人じゃもうどうしようもないよ……」


「琢也はどう言ってた?」


「何も言ってなかったよ」


「そっか……今日、遅くなるけど、お前んちに寄るからその時また話そう」


「え? うん」


 悠太郎に話をしても、どうしようもない気がする。

 でも、せっかく話を聞いてくれるならそうしよう。


 由美と合流し、同じように心配された。

 昨日あったことを由美にも話した。

 その話を聞いて、由美は吉田さんに対して怒ってしまった。

 言わない方が良かったかな……。



******



 教室に入ると、何だか違和感を感じた。

 最近続いていた私や謙輔に対しての嫌がらせが、ピタッと収まっていたのだ。

 それどころか、野村さんや橋本さんも私に普通に挨拶してくれる。


「一体どうなってるんだ……」


 謙輔も疑問に思っているみたいだ。

 そして、河村さんと吉田さんが一緒に教室に入ってきた。


「吉田さん、おはよう」


 返事は無かった。

 昨日の今日だし、仕方ないか。

 それでも、やっぱり吉田さんは無理しているようにしか見えなかった。



******



「これで良かったんじゃないか?」


 謙輔が諦めたように言った。


「お前は吉田のいじめを無くしたかったんだろ?それが叶ったんだ」


「それはそうだけど……」


「見てみろよ。もう昼休みだ。いじめは起こってない。それどころか、あいつ河村と楽しそうに話してたじゃないか」


「楽しそうに見えた?」


「ともかく、このクラスからいじめは消えたんだ。これで解決ってことでいいだろ」


 たしかに、このクラスからいじめは無くなったように見える。

 川田も大人しくなったし、小岩井も何も言ってこない。


 吉田さんがそれでいいなら、私も構わないんだけど、そうは思えない。

 そう思うのは、私にはあのメモがあるから。

 謙輔達にはそれが無い。

 いっそ、あのメモのことを謙輔達にも話してしまおうか?

 ……ううん、きっと馬鹿にされる。


 状況は最悪だ。

 目に見えてのいじめがあった時の方が動きやすかった。

 もちろん、いじめなんか無い方がいいんだけど、この状況は何か違う。

 吉田さんも私達に助けを求めようとしてこないので、私達も動きようがない。



******



 どうしたらいいんだろう。

 教えてよ、3歳の頃の私……。


 メモを見ながらそんなことを考えていたら、チャイムが鳴った。


「よう、遅くなっちゃったな。おばさんは?」


「買い物に行ってるよ。みりんが切れちゃったんだって」


「そっか。今日も料理手伝うのか?」


「煮物は難しいからね……もしかして、今日も食べて行く気?」


「うちの親、共働きだからさぁ……今日も居ないんだよな」


 そう言って笑う悠太郎。

 別にいいけどさ、たぶんお母さん多めに作るだろうし。

 そのうちご飯代貰うからね?


「喉乾いたでしょ?何か飲み物持ってくるよ。私の部屋で待ってて」


「え?お前の部屋?……いいの?」


「タンスとか触っちゃ駄目だからね!」


「わ、わかってるよ」


 何か嫌な予感がしたので釘を刺しておく。

 あいつ何飲むのかな?カルピスでいいかな?

 お茶でもいいんだろうけど、話聞いてくれるみたいだし、少しはサービスしとこう。


 部屋に戻ると、悠太郎が何かを見ているようだった。

 あれほど言ったのに……怒ってやる!


「悠太郎君? ……何見てんのかな?」


「あ、玲美。……これ何だ?」


 悠太郎の手には、あのメモが握られていた。

 そういえば出したままだったっけ。


「それね、私が小さい頃に書いてたメモ」


「ふーん。さ・ち・に・き・お・つ・け・ろ か」


 不思議そうに眺めてる。

 まぁ、普通は読めないよね。


「さちに気を付けろってどういうことだ?」


「え?」


「五年が終わるまで……えりかを頼む……か?」


 悠太郎はあっさりここまで解読してしまった。

 そこまで読むのに私自身苦労したのに……。


「ま、まぁいいじゃん……そんなのより」


「玲美が吉田を庇う理由って……これ(・・)か?」


 悠太郎は気付いてしまったみたいだ。


「これ、本当にお前が書いたんだな?」


「うん……3歳くらいの時にね」


 普通なら、くだらないと言い捨てられてもおかしくないものだ。

 だから、私は誰にもこれを見せなかった。

 だけど、悠太郎は違う。このメモを真剣に見ていた。


「さちに気を付けろっていうのがわからない。さちって人の名前か?」


「うん……でもそれは、私の小さい時の癖で、名前の部分は逆文字になってるの」


「さちの逆……ちさ……河村智沙」


 悠太郎はすごい。

 私が出したヒントだけで、どんどん解いていく。


「何でこんなものを3歳の時に?吉田や河村と面識があったのか?」


「ううん。私も覚えてないんだけど、お母さんの話によると近所にもそんな子は全然いなかったみたいだよ」


「覚えてない……じゃあ、玲美は物心つく前に、これを書いたってことだ」


「そうだね」


 物心つく前ね。

 そこまで考えてなかったけど、言われてみればその通りだ。


「未来予知?いや、そんな単純なものじゃないような……もっと霊的な……」


「悠太郎は、そのメモを見て私のこと変な奴だって思わないの?」


「何で?面白そうじゃないか」


 そんなあっさり言われてしまうと、何も言えないんだけど。


「この5年が終わるまでって、小学5年生が終わるまでって意味じゃないのか?吉田と河村がお前と同じクラスになったのが5年生になってからというのも、でき過ぎている気がする」


 悠太郎には全部話してしまおう。

 たぶん、悠太郎ならわかってくれる。


 もういっそ、そのメモを解読した日に起こったことも含めて全て話してしまおう。

小学生の頃こっそり書いてた自作のマンガを友達に見られた時のことを思い出しながら書きました。

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