03:5年後
第3話です。物語の都合上、一気に小学3年生まで飛びます。なるべく小学生っぽい感じでセリフなど入れたかったのですが難しいですね。よろしくお願いいたします。
※レイアウトと文章を少し加筆など含め修正しました。
短かった春休みも終わり、明日から新学期。
宿題が無い春休みが、わたしは一番大好きだった。
明日から学校だと思うと、なんかしんどいなぁ。
3年生はクラス替えもある。
仲良しの由美ちゃんと、また一緒のクラスになれると良いな。
翌日――――
クラス替えの名簿を見に行く。
わたしの名前はどこだろ……あ、3年2組のところにあった。
由美ちゃんは!? 神様、由美ちゃんと同じクラスでありますように!
「玲美ちゃん、また同じクラスだね!」
振り返ると、わたしの一番の親友、明川由美が笑顔で立っていた。
「由美ちゃん!やったー!」
「きゃー!」
これで5年生になるまで由美ちゃんと同じクラスだ。神様ありがとう!
「オレも同じクラスだぜ!」
小岩井恭佑。
幼稚園の頃からのくされ縁。またこいつと同じクラスか。
神様、こいつはどうでもいいです。
「始業式が始まるから、荷物置いた子は外に出てー」
朝礼嫌い。校長先生の話長いし。
始業式の無い世界に行きたいよ……。
******
始業式も終わり、新しいクラスに入る。
やっぱり校長先生の話は長かった。
何だか難しい話が続いた後、たぶんみんなが飽きないようにっていうつもりだったんだろうけど、校長先生の集めてるお酒のふたの話とか、本当にどうでもよかった。
「今日は、自己紹介をしてもらおうと思う。新しいクラスになって面識の無い子も多いだろ?ちなみに俺は担任の和田明彦!趣味はお酒のふた集めだ!」
……流行ってるのッ!?
「じゃあ、左端のお前から。名前と趣味な!」
「あ、阿東研二。趣味は切手集めです」
そこはお酒のふた集めでしょ。
「伊藤悠太郎です。東京のほうから転校してきました。趣味は音楽聴くことです」
転校生なんていたんだ。クラス替えのある新学期だとわかんないよね。
東京からかぁ、都会の子だね。
そういえば、なんかオシャレな感じがするような。
自己紹介は一通り終わった。
趣味は無難に読書って言っておいた。
ええ、漫画しか読んでません。
あとは掃除をして帰るだけなんだけど、クラスの女子はみんな伊藤くんに夢中だ。
東京って言ったら都会だもんね。
芸能人に会った?とか今着てる服どこの?とかそんな話題で持ちきりだ。
男子はみんなつまらなそうにしてる。
わたしと由美は、そんなことより早く帰れるから遊びに行く約束で忙しい。
伊藤くん、転校生でいきなり目立ってるし、いじめとか無ければいいけど。
******
翌日の20分休み――――
「おう、ドッチ行くぞ、お前ら!」
そう叫んだのは西田琢也。
見た目も態度も、典型的なガキ大将だ。
こいつとは同じクラスになりたくなかったな。
あと、ドッチじゃなくてドッジな。
ほとんどの男子が出ていく中、女子に囲まれた伊藤くんは残っていた。
「おい、伊藤!お前も行くんだよ!」
西田はキレかかっていた。
女子に人気がある伊藤くんが気に入らないっぽい。
「うん、行くよ。それじゃ、みんなごめんね」
苦笑しながら片手をあげる伊藤くん。態度もイケメンだわ。
なんでだろ、わたし女なのにチヤホヤされてるの見てるとちょっとイラっとする。
ああいうの苦手なのかも。
わたしは由美ちゃんと一緒に鉄棒に向かった。
由美ちゃん、今年こそ逆上がりができるようになりたいらしい。
わたしが逆上がり得意だから教えてほしいみたい。
何度やっても途中までで止まってしまう由美ちゃん。
あと少しなんだけど、たぶん腕が伸びちゃってるからうまくいかないんだろうな。
ふと横を見ると、グルングルン回ってるやつがいる。
小岩井だ。
お前なんでこっちにいるんだ。男子はドッジだろ。
足も付けずにひたすら回る小岩井。
あ、落ちた。
目を回してしまっているみたいだけど、そっとしておこう。
他の男子が小岩井を回収しに来た。
西田にめっちゃ怒られてる。ざまぁ。
ドッジボールも終盤。残っているのは西田と伊藤くんだ。
ものすごい勢いで投げる西田。
あんなの当たったら大怪我しそうだ。
それをさらりとかわす伊藤くん。
意外とやるじゃん。
いつの間にか女子のギャラリーができている。
そして、横で由美ちゃんが逆さになったままプルプル震えてる。
「死ねー!伊藤ー!」
死ねはないだろうに。
ボールは一直線に伊藤くんに向かう。これは勝負あったかな?
すると、かわすのをやめて、あっさりとキャッチした伊藤くん。
「あいたたた……とんでもない力してるね。でも!」
ダッシュで勢いをつけて投げる体制を取る伊藤くん。
盛り上がる女子の声援。震えが増す由美ちゃん。
「くそ!来るなら来いやぁぁぁああ!!」
西田も構える。
すると、伊藤くんはそのまま山なりで外野にパスをした。
「なっ!?しまっ……」
外野に回ったボールは背後から西田を襲った。
これにはさすがに西田も対処できず、当たってしまった。
「「「キャアアアアアアア!!!!」」」
大歓声。
「オレの勝ちだね」
伊藤くんはしゃがみ込んでいる西田に握手を求めた。
「……やるじゃん、お前」
西田も認めたようだ。
どこからか、健闘した二人を称える拍手が聞こえてきた。
次第にそれは大きな喝采へと変わる。
わたしもこれには拍手を送らざるを得ない。
「熱い試合だったねー」
「う、うん……玲美ちゃん、逆上がり……」
すっかり由美ちゃんのことを忘れていた。
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