28:悠太郎と晩御飯
第28話です。読んでいただけましたら幸いです。
あれから、私達への風当たりは強くなっていった。
目に見えて吉田さんを庇っている、私と謙輔への嫌がらせは顕著だった。
私と謙輔の相合傘が書かれていたこともあった。
謙輔は喜んでいたけど、そこは怒ろうよ。
なんか癪だったのですぐに消してやった。
でも、このくらいは想定内のことだ。
私も謙輔も、吉田さんを守るからにはそのくらいのことは覚悟していたし、そのくらいでへこたれはしない。
ただ、謙輔がよくキレそうになっているので、部下の江藤は苦労してるみたいだ。
私に対しては、主に女子から無視されたりすることが続いている。
野村さんも橋本さんも、あれ以来私に話し掛けてくることは無くなった。
給食の時間も、微妙に席を離されていることがちょっと傷付く。
どうやらクラスの女子全体に、私を無視するように御触れが出ているらしい。
これは、森山さんからこっそり聞いた。
私を無視したい人は無視すればいいよ。
どこまで私を無視できるか、根競べと行こうじゃないの。
フッフッフ……と、私は、悪い笑みを浮かべてみた。
******
ピンポーンとチャイムが鳴った。
「よ、自転車取りに来たよ」
悠太郎だ。
あれから毎日、私達と学校に通うのを続けている。
すっかり日常と化してしまっているけど、毎回わざわざ挨拶して行かなくても、そのまま乗って帰ればいいのに。
「悠太郎って、こういうところは律儀だよね」
「そのまま乗って帰るのも、オレが盗んで帰ってるみたいで変だろ?」
「あー、言われてみればそうかもね」
「ところでさ、オレ、レギュラーになれたんだよ」
「やったじゃん!」
「がんばったからな。今度、玲美にもバレー教えてやろうか?」
「私はいいよー。だって、バレーって身長高くないとできないでしょ?」
「トスとかは身長関係無いぜ」
「あら、伊藤君、こんばんは」
悠太郎と話していたら、お母さんが出てきた。
「立ち話もなんだし、上がってもらったら?」
「悠太郎だって早く帰りたいと思うよ?」
「今日は親が外出てるから、ちょっと遅く帰ってもうるさく言われないよ」
「え?じゃあ、晩御飯は?」
「コンビニで買って帰るよ」
「あら、じゃあ伊藤君、もし良ければうちで食べて行きなさいな」
「いいんですか?じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかなー」
あっさりと、お母さんの提案を受け入れる悠太郎。
こういう時って、少しは遠慮するもんじゃないの?
別にいいけどさ。
テーブルを布巾で拭いて、コップを並べて行く。
悠太郎は一応お客さんなので、とりあえず座っててもらう。
「オレも何か手伝うよ」
「何かって言っても、あとはご飯運ぶだけだし」
「じゃあ、ご飯はオレが運ぶよ」
お母さんの所に行って手伝う悠太郎。
ついでに何か話してるみたい。
お母さん、絶対私の恥ずかしい話とか悠太郎に言わないでね!
そうこうしているうちに、ご飯の準備は整った。
「「「いただきまーす」」」
今日はカレーライスとポテトサラダだ。
ポテトサラダは私の作った自信作。
香辛料とマヨネーズのバランスが味の決め手です。
「お、カレーうまいです!お母さん料理上手ですね!」
「あらあら、伊藤くんはお上手ね」
悠太郎はおいしそうにカレーを食べていた。
そういえば、私も由美の家で何度か晩御飯を食べさせてもらったことがあるんだけど、よそのお家の晩御飯って、なぜか自分の家のよりおいしく感じる。
この現象って何なんだろうね。
「伊藤君、よければおかわりもあるから、遠慮なく言ってね」
「ありがとうございます!じゃあ、もう一杯いいですか?」
「悠太郎すごいねえ。私、もうこれだけでお腹いっぱいなんだけど」
「男の子はよく食べるからね。フフッ、息子ができたみたいで、おばさん嬉しいわぁ」
上機嫌のお母さん。
カレーが山盛りになっていた。
お父さんの分あるの?
「ほんと、玲美のお母さん料理上手だな」
山盛りのカレーをバクバク食べる悠太郎。
「ポテトサラダも食べてあげてね。玲美が頑張って作ったんだもんね」
「え?玲美って料理できたの?」
「少しはできるよ。たまに作るくらいだけど」
「じゃあ、ポテトサラダもいただいちゃおうかな」
「どうぞどうぞ」
「ん、これも凄いうまいな!」
「ほんと?」
頷きながら、ポテトサラダをおいしそうに頬張る悠太郎。
美味しいって言われたら、ちょっと嬉しいな。
あっという間にサラダが無くなってしまった。
「おいしかった?」
「もっと食べたいくらいだ」
「そっか。じゃあ、食べかけで良かったら私の少し食べる?」
「いいのか?じゃあ欲しい!」
悠太郎にサラダを少し分けてあげた。
カレー食べ終わる前に、サラダ全部食べちゃうんだもん。
バランス良く食事は摂らないとね。
こうして、晩御飯は楽しく過ぎて行った。
******
食べたら運動!
片付けと洗い物は私の役目だ。
「手伝おうか?」
「じゃあ、私が洗ってくからお皿拭いてってもらってもいいかな?」
「おう、任せてくれ」
悠太郎が食器を拭いてってくれるので、いつもより楽だ。
洗い終わった食器は、棚に並べ直していく。
「お前、いつもこんなに手伝ってるのか?」
「ん?普通だけど」
「そっか。オレは家じゃ全然手伝ってないからなぁ」
「悠太郎は男の子だしね。そんなもんじゃないの?お父さんも全然手伝わないし」
「でも、玲美を見てたら偉いなぁって思ったよ。オレも今度から手伝おう」
「がんばってね」
キッチンも綺麗に拭いて、後片付けは終わった。
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「じゃあ、そろそろ帰るよ。おばさん、ごちそうさまでした!」
「またいつでもいらっしゃい。余分に作っておくからね」
「ありがとうございます」
お母さん、本当は娘じゃなくて息子がほしかったんじゃないだろうか。
悠太郎のこと、かなり気に入ったみたいだし。
「それじゃ、玲美、また明日な」
「うん、また明日」
「サラダ、おいしかったよ」
そんなことを最後に言って悠太郎は帰って行った。
なんだか頬が熱い……熱でもあるのかなぁ。
あとで風邪薬飲んでおこうかな。
あれから、お母さんは悠太郎のことを嬉しそうにお父さんに話していた。
私も、悠太郎が来て、ちょっと楽しかったな。
さて、明日からまたがんばろっと。
次はいじめ回になる予定です。




