26:悠太郎の気持ち
第26話です。なんとか間に合いました。読んでいただけましたら幸いです。
部活でちょっと遅い時間になってしまった。
直接帰った方が早いんだけど、自転車を取りに行かなければならない。
いちいち取りに行くのはめんどくさいけど、次からは玲美の家に自転車を置けるので、ちょっとは楽になりそうだ。
ついでに、あいつと少し話しができるかもしれないと思えば悪い気はしない。
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転校する前も、転校した後も、オレはなぜか女子にはやたらとモテていた。
贅沢な悩みかもしれないが、俺にとってはそれが苦痛で仕方なかった。
そんな中、オレの方を見向きもしない女子がいた。
最初はそんな奴もいるんだな程度に思っていた。
遠足の班決めの時、朱音達が一緒の班になろうとうるさかった。
オレはもう、うんざりしていた。
せっかく友達の琢也と組もうとしてるのに、あの時の朱音は今からでは考えられないほど嫌がっていた。
今だったら琢也がいれば大喜びしそうなもんだけどな。
そんな時、オレに興味の無さそうな女子が居たことを思い出した。
それが、玲美と由美だ。
オレは二人を班に誘った。
琢也以外は急造の班だったけど、一緒に居て楽しかった。
オレ達は、この班を通じて友達になった。
順は最初はオドオドしていたけど、だんだんと自己主張するようになっていった。
由美は思いやりのある優しい子だ。でも、しっかりとした自分というものを持ってる子だと思った。
玲美は見ていて正直危なっかしい。考えるよりも動くタイプだ。朱音を探しに行って大怪我した時は本当に焦った。
玲美は意外な事に運動が得意のようで、運動会でも活躍していた。
リレーに出た時は、オレがアンカーで玲美はそのオレにバトンを渡す役目だった。
それまで4位でこりゃ負けたと諦めかけていたら、あいつは2位になってオレにバトンを渡してきた。
そんなのを見せられてしまったら、オレも頑張らないわけにはいかない。
何とか1位をもぎとると、あいつは涼しい顔で『おつかれさま』と言ってきた。
オレがどれだけ頑張ったと思ってたんだか。
学芸会も楽しかった。
シンデレラの話で、オレは王子様の役に決まってしまった。
あまり乗り気じゃなかったけど、馬役の玲美を見ていたら面白かった。
馬の物真似を身につけるために牧場に行って来たという、あいつの迫真の演技は目を見張るものがあった。
あいつの役はそういう馬じゃなくて、馬車の馬だったんだけどな。
4年生になって、オレはバレー部、朱音は美術部に入ってしまった。
そのせいもあって集まる機会は減ってしまったけど、オレ達は何をするにも同じ班だった。
この学校に転校してきて良かった。
今なら、そう思える。
5年生になって班のみんなと別れてしまったのは寂しかった。
きっと、会う機会も減ってしまうと思っていたから。
玲美が渡辺にボウリングに誘われたという話を聞いた。
オレを誘わないと絶対に行かないらしい。
この話を聞いた時は、玲美がオレを頼ってくれていると嬉しかったが、同時に渡辺の事が気になった。
思った通り、渡辺の奴は玲美に好意を抱いていた。
自分の横に無理やり玲美を座らせた時は、ふざけんなと思った。
玲美も何か言ってやれよと思ったけど、何も言わず従っていた。
それが、なんだか悔しかった。
ボウリングで、玲美からのキスを賭けて勝負と渡辺が言い出した時は焦った。
オレも、その勝負に乗らせてもらった。
玲美の応援もあって、勝負に勝つことができた。
その帰り、玲美は大人しく従っていたかと思うと、急に渡辺に吠えだした。
吉田をいじめている渡辺のことを許せなかったらしい。
たぶん、吉田のために渡辺のことをあいつなりに探っていたのだろうと今は思う。
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これまで、玲美の色んな面を見てきた。
由美と楽しそうにしているあいつ。
誰にでも優しく接するあいつ。
嫌な事には全力で立ち向かおうとするあいつ。
強い奴かと思ったら、意外と泣き虫なあいつ。
気が付くとオレは、そんなあいつに惹かれていた。
玲美が今までそんなに面識の無かった吉田を庇いたがる理由は、正直なところわからない。
でも、あいつの取る行動には今までちゃんと筋が通っていた。
あいつが吉田を助けたいと言うのなら、オレは協力を惜しまない。
きっと、何か理由があるはず。
それに、吉田の件に関してはオレも可哀想だとは思う。
子は親を選べないと渡辺が言っていたが、まさしくその通りだ。
いじめていた奴が言えた義理ではないんだけどな。
オレの両親は、犯罪に手を染めることなく、しっかりとオレを育ててきてくれた。
おかげで、オレはこうして健全で居られる。
もしも、オレの親が犯罪者だったとしたらどうだろう。
きっとオレは、グレてしまうか、やさぐれて自暴自棄になっていただろう。
考えただけでもゾッとする。
やはり、吉田は強い奴なんだな。
自転車置き場に着いた。
ここから家まではちょっと遠いけど、いい運動にもなるな。
家に着く頃には腹ペコだろうけど、家に帰れば温かい料理が待っている。
今まで当たり前のことだと思っていたけど、その当たり前のことが幸せだったんだなと思う。
家に帰ったら、皿を洗うことくらいはしてやろうかな。
親父の肩でも揉んでやろうか。
そんなことを考えながら、帰路に就く。
そういえばボウリングの優勝賞品をまだもらってなかったな。
あの賭けはまだ有効なんだろうか?
急に言って、恥ずかしがる玲美の顔を見るのも悪くは無いな。
オレは、ペダルを踏む力を強めた。
急いで書いたので、変なところがあったら後から直します。
※ちょっと直しました。




