24:神社にて(4)
第24話です。飛び飛びで続いていた神社にての話も、これで終了です。よろしくお願いいたします。
※加筆修正しました。
「吉田さん、ちょっといいかな?」
私は吉田さんを抱き起こし、広場へと連れて行った。
謙輔達が待っている場所だ。
「渡辺君!?」
吉田さんが硬直してしまった。
自分をいじめていた人がいるんだ。
当然の反応だろう。
でも、吉田さんのためにも、謙輔のためにも、二人は会わせなくてはいけない。
「謙輔、吉田さんに言わなくちゃいけないこと、あるよね?」
「おう……わかってる」
そう言うと、謙輔と子分達は土下座の体制を取った。
「俺達が悪かった……すみませんでしたァ!!」
大きな声で謝罪する謙輔。
「「すいませんっした!!」」
子分達も、大きな声で謝罪する。
何が起こったのかわからず、きょとんとしている吉田さん。
「ど、どういうことなの……?」
「あいつらは、吉田さんをいじめてた。悪いことをした。じゃあ、謝らないとね?」
「お前の気持ちも考えず、本当に申し訳なかったァ!!」
ちょっと声でかすぎ。
ほら、吉田さん怯えて震えてんじゃん。
「お前には罪は無い……悪いのはお前の親父だ。お前は何もやって無い」
「もしかして……みんな、知ってるの?日高さんも?」
「知ってるよ。謙輔の家で新聞見たもん。でも、それがどうしたって感じ」
「私が……怖くないの?人殺しの娘なのよ?」
「吉田さんが人殺しなわけじゃないもんね」
吉田さんの目から、大粒の涙が溢れるようにこぼれ出した。
ああ、せっかく泣き止んでたのに!
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「まぁ、謝ったところで、俺がしてしまったことが許されるわけじゃないけどな」
「そりゃそうだよ。私だったら一生恨むね」
「ごめんね、吉田さんのことよく知りもしない癖に、私もちょっと嫌っちゃってたよ……」
「僕も、同じクラスに居たのに気付いてあげられなくてすみません」
由美も順も、吉田さんに謝った。
「……恥ずかしいところを見せてしまったわね……」
目をごしごし擦りながら吉田さんが言う。
「あ、駄目だよ。瞼腫れちゃう。このハンカチ使って」
由美がさっとハンカチを取り出した。
「悲しい時、辛い時に泣くことは恥ずかしいことじゃないよ。玲美だって、私の前だと泣いてばっかだし」
私は恥ずかしいです。
せっかくかっこつけて吉田さん慰めてたのに台無しじゃんか!
「日高さんって不思議な人ね……私があれだけ拒絶していたのに」
「そりゃもう、私はしつこいですから」
「今まで会った人達とは、何か違うような気がする……」
そう言われると照れちゃいます。
「暴走ポメラニアンだ、こいつは」
琢也がわけのわからない例えを言った。
「渡辺君達ですら、あなたが変えてしまったのね……」
「暴走ポメラニアンに吠えられたからな。あれは怖かったぜ……」
謙輔も琢也に便乗して何か言ってる。
暴走ポメラニアンってなんだよ。
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「そういえば吉田さん、体調は大丈夫?」
「うん。今はちょっとだるいけど……」
「病院行った方がいいんじゃないのか?お金なら俺が出すぜ?」
「本当に、大丈夫だから」
「そっか?」
謙輔はしょぼくれてしまった。
吉田さんは、もう謙輔と話しても震えてないみたいだ。
良かった。
「明日は学校来れるのか?」
琢也が心配げに吉田さんを見て言った。
「たぶん……大丈夫だと思う」
「いじめなんて気にする必要ねえぞ。俺達がお前の味方だ」
謙輔が自信満々に言った。
そうだね、私達が付いてる。
いじめなんか、怖くない。
その時フッと、吉田さんが笑った。
その笑顔は、見とれてしまうほど綺麗だった。
「頼りにしてるわ。暴走ポメラニアンさん」
え、吉田さんもそれ使うんスか?
やめて、何かそのあだ名定着しそうだから、やめてさしあげて。
こうして、私達は神社を後にした。
いじめが解決したわけじゃない。
河村さんと、小岩井のこともある。
だけど、私達は絶対に負けない。
最悪の未来なんて、絶対に来させない。
来年の4月には、みんなで笑顔で進級して見せる。
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「ただいま」
日高さん達と別れた後、私は家に帰った。
「お母さん、あのね……私……」
「家の手伝いもしないで……どこほっつき歩いてたの」
「ごめんなさい……これから手伝うから。何か作ったらいい?」
「お母さんが作るよ。あんたは手を洗っといで」
私はびっくりした。
長いこと家事をしなかった母が、料理をすると言うのだ。
机の上には、アルバムが置いてあった。
母が見ていたのだろうか。
「今日ね、あんたのクラスメイトが来たよ。日高さんだっけね。あんたのことが心配で来たんだって」
「日高さん……うちにも来てたんだ」
「あんた、帰って来てから何か違うね。ずっと暗い顔してたのに」
母が笑顔で私に語りかけてきた。
母の笑顔を見たのは随分久しぶりな気がする。
「日高さんね、私を探しに来てくれたんだ」
「そう……良い友達ができたんだねぇ……」
友達……そうだ、私は言わなくちゃ。
日高さんに、友達になってくださいって。
彼女、喜んで受け入れてくれるかな?
こんな私なんかでも、友達になってくれるのかな?
ううん、きっとなってくれる。
そんな気がする。
その日、久しぶりに食べた母の手料理はおいしかった。
楽しく食べることができた。
母と、おしゃべりもした。
******
最初の出会いは偶然だった。
重そうな醤油を小さい体で一生懸命運ぶ。
そんな彼女を見て、ちょっと変な子だなって最初は思った。
私に怖がらずに話しかけてくる彼女。
久しぶりに人と話すことができてちょっと嬉しかった。
でも、私に近付けては駄目と思い直し、拒絶した。
次に出会ったのは、また神社だった。
彼女は友達と来ていたみたいで、話をしてみたかったけど怖くて逃げた。
5年生になり、さすがに学校に行かなきゃと思って登校した。
彼女が同じクラスになったとわかった時は、嬉しかった。
すぐに、いじめが再開した。
私のスカートが、ゴミ置き場に捨てられていた。
そんな私を見て心配そうな顔をする彼女。
思わず弱音を吐いてしまった。
近くにはクラスメイトが何人かいた。
私に優しくしているところを見られて、日高さんを巻き込んでしまうのは嫌だった。
酷いことを言ってしまった。
どちらにしても、彼女を傷つけてしまった。
もう、これで、私を助けてくれる人はいなくなったと思っていた。
私は、神様に祈った。
神様なんていないと思ってたけど、他にすがるものがなかったから。
それからもずっと、神社には通った。
時々、彼女が来ていないか無意識に探していた。
あの時のことを謝りたかった。
でも、彼女を見ることは無かった。
自分で散々拒否しておいて、虫のいい話だと思う。
こんな私を、神様がもし居たとしても、助けてくれるわけがない。
そう思ってた。
私が顔を上げると、そこには私が会いたかった少女が立っていた。
神様が、願いをかなえてくれたんだ。
あの光景を何度も思い返すと胸が熱くなる。
私はきっと、今日という日を、ずっと忘れないだろう。
母の虐待フラグは、へし折られました。




