21:恵利佳の行方
第21話です。ちょっと時間が空いたので、投稿します。よろしくお願いいたします。
翌日も吉田さんは休んだ。
先生が言うには、体調不良でと連絡があったらしい。
さすがに今日は花瓶は置かれていなかった。
花瓶は謙輔達が割っちゃったしね。
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休み時間――――
廊下で小岩井とばったり会った。
吉田さんをいじめたことについて聞くチャンスか?
でも、ここは慎重にならないと、私一人が暴走してしまうわけにはいかない。
そんなことを考えていると、小岩井の口から出たのは意外な言葉だった。
「日高、俺、河村と付き合うことになった」
河村……!?
「河村智沙……さんのこと?」
ここまで動きの見えなかった河村智沙の話題が急に出たことで、少し動揺してしまった。
「ああ、彼女は素晴らしいんだ。俺のこと頼りにしてくれるし、お前と違って優しい」
「悪かったね、優しくなくて」
「彼女のためなら、俺は何だってできるぜ……そして、抱き締めるとこう柔らかくて、いい匂いがするんだ……」
こういうの、何て言うんだっけ……?
何とも言えない気味の悪い笑みを浮かべる小岩井。
背中がぞわっとする。
こいつのこんな表情、今まで見たことがない。
「お前も、河村を見習って、もう少し女らしくなれよ。じゃあな」
言いたいことだけ言って、小岩井は去って行った。
思いがけず得た情報。
小岩井と河村智沙は、付き合っている。
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20分休みを利用して、私は由美のクラスへ行った。
由美と朱音に、さっきあったことを相談するためだ。
「そんなことがあったの」
「恋をすると、人って変わるものね……私も琢也君に出会って、随分変わったと思うし」
朱音は性格が丸くなった気がする。
昔のトゲトゲしさは全く無くなったと思う。
「いつものあいつと違う感じで、ちょっと寒気がしたよ」
「それにしても、河村智沙さんねぇ……どんな子だっけ?」
「私も、名前くらいは知ってるけど、どんな子かは全然知らないわ」
「優等生を絵に描いたような子だよ。小岩井とは正反対って感じ」
「小岩井の変貌ぶりを考えると、ちょっときな臭い感じがするわね」
「わたしもそう思う。ちょっとクラスの子達にも河村さんのこと聞いてみるね」
小岩井が吉田さんのいじめに加担したことに、河村智沙が関わっているとは思う。
だけど、あまりに情報が少なすぎて、まだ証拠は掴めそうもない。
もっと、情報を集めなくちゃ。
いっそ本人に直接聞いてしまおうか。
「玲美、河村さんに直接聞くのはやめてね。危ないから」
「あ、はい……」
由美に釘刺されたのでやめておこう。
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「それにしても吉田の奴、全然出てこないな」
放課後、体育館脇にある池に、私達は集まっていた。
ここには人がほとんど来ることは無く、あまり目立たない場所でもあるので、こうして集まるにはちょうどいい場所だ。
悠太郎と朱音は部活動をしているので、今集まってるのはそれ以外のメンバー。
珍しいことに今日は坂本も居た。
坂本が私たちの集まりに参加するのは、初めてのことだ。
「謙輔さんが、あんなことしたからじゃないか?」
坂本が、謙輔をたしなめる。
「う……たしかに、俺がいじめてからだよな、来てないのって……」
落ち込む謙輔。
いや、そこは庇わないからね?
やったことは事実なんだし。
「様子見がてら、謝りに行くのはどうだ?」
琢也が提案を出した。
それ、意外といい案かも知れない。
本人にも直接いろいろ聞けるし。
「吉田さんの家ってどこだっけ?」
由美が言って気付いたけど、私も吉田さんの家どこかわかんない。
神社であったことがあるくらいだし……。
「僕、知ってますよ。そんなに離れていないし、行ってみます?」
さすが順、こういう時頼りになるね!
この後家の用事があるという森山さんとは別れて、私達は吉田さんの家へと向かった。
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「ここが、吉田さんの家か……」
そこは、結構年季の入ったコーポだった。
ところどころ朽ちてる部分も見られる。
「あいつ、こんなところに住んでるんだな」
「そんなこと言ったら失礼だぜ?」
「そうだな、子は親を選べないもんな……よし、江藤、呼び鈴押してくれ」
お前、自分では押さないのな。
「了解っス」
江藤が呼び鈴を押す。
じっと待つ私達。
……誰も出てこない。
「呼び鈴ちゃんと鳴ってた?」
「聞こえたような、聞こえてないような?」
「もう一回押してみるっス」
何度押しても反応がない。
留守なんだろうか?
「しつこいね!新聞なら、うちは取らないよ!」
不機嫌そうな大人の女性の声が聞こえた。
もしかして、吉田さんのお母さん?
「あの、私達、恵利佳さんのクラスメイトで、日高玲美って言います。恵利佳さんがずっと休んでるので心配で来ました。恵利佳さん居ますか?」
「新聞じゃないのかい。恵利佳ならどっか出掛けてるよ。全く、家の手伝いもしないで何やってんだか」
不機嫌な声の主によると、吉田さんは家に居ないそうだ。
「あの、恵利佳さん、どこに行ってるかわかりませんか?」
「知らないよ!どっかその辺にでもいるんじゃないのかい!?」
「玲美、もうやめとこう」
由美が止めてくる。
「ありがとうございました。失礼しました」
それだけ言って、私達はコーポを後にした。
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「おかしいよな。あいつって体調不良で休んでるんだろ?病院に行ってるならわかるが、親がどこに行ってるかわからないって言うなんて、変だと思わないか?」
謙輔の言うとおりだ。
それに、あの親の態度は何だかおかしい。
私達が思っている親というものとは、随分と違う感じがする。
「どこに行ってるんでしょうね……」
「吉田が行く場所なんて、見当もつかないよな」
吉田さんの行く場所か……。
……もしかしたら、あそこかも!
「待って、みんな。私、吉田さんのいる場所わかるかもしれない」
「本当か!?」
「うん、私に着いてきて」
こうして、私達は、吉田さんがいるかもしれない場所へと向かう。
向かう先は、私が吉田さんと初めて出会ったあの場所だ。
レイアウトはいろいろ研究中なので、ある程度定まってきたら、第1話から全部レイアウトを変更する予定です。




