20:親友の由美
第20話です。よろしくお願いいたします。
「由美、ちょっと外行こう」
「……放してよ、日高さん」
その言葉が、ズキっと胸に刺さる。
久しぶりに由美に日高さんなんて言われたな。
小学校入りたての時以来だろうか。
あの時の琢也もこんな気持ちを味わったのか。
そりゃ泣くよ。私ももう泣きそう。
思わず手を放してしまい、出て行ってしまう由美。
私は後を追いかける。
「由美、待って、話を聞いて!」
「付いてこないでよ!わたしなんてもう関係無いんだから!」
立ち止まってくれない。
止めようにも、由美の力は意外と強く、止まってくれない。
どうしよう、どんどん由美が離れて行ってしまう。
本音を言うと、私にとって吉田さんを救えないことよりも由美と絶交してしまう方が辛いのかもしれない。
なんだろ……わけわかんなくなってきた。
これだけいろんな人を巻き込んでしまったというのに、結局私も自分が一番大事なんじゃないか。
みんなを幻滅させてしまったかもしれない。
だから、由美も私から離れて行ってしまうんだ。
遠くに由美が見える。
こうしている間にも、どんどん距離が遠くなっていく。
追いかけなきゃ……。
全速力で走った。
ズキッ!!
あの時の怪我に急に痛みが走った。
私は転んでしまった。
何でこんな時に……。
ずっと痛んだことは無かった古傷がこんな大事な時に痛みだすなんて……由美が見えないところまで離れて行ってしまう。
あちこち擦り剥いて痛い。体も心も痛い。
もう、走れない。
「……由美ぃ…………」
うずくまって泣いた。
もう、泣く私を慰めてくれる親友は居ない。
そっと、見慣れたハンカチが視界に入った。
そのまま頬に当てられる。
ハンカチは濡れていた。
「……冷たいです…………」
「……まったく、もう……足出して、ちょっと綺麗にするから」
気が付いたら古傷の痛みは引いて行った。
******
近くの公園のベンチに腰掛ける。
由美は、私の足を水道で洗って、持っていた絆創膏を貼ってくれた。
「由美……怒ってる?」
「怒ってるよ」
「ごめんなさい……」
「何で怒ってるかわかってるの?」
「私が吉田さんを助けようとしてるから?」
「それだけじゃないでしょ?」
「じゃあ、何?」
「私は玲美のなんだったかな?」
「……親友……です」
「無茶をする前に、一言相談してほしかったなぁ……」
「だって、由美……吉田さんのこと嫌ってたじゃん……」
「そうだよ、吉田さんのことはあまり好きじゃないし。それは今でも変わらない」
だから、言いだせなくてこうなっちゃったんだよ。
今回呼ぼうって決めた時も、本当は迷ってた。
「玲美がなんでそんなに吉田さんを助けようとしてるのかもわからないしね。それに、渡辺君のことだってそうだよ。私の知らないところで、危険に足突っ込んじゃってさ」
「それもごめんなさい」
「渡辺君も危険だって教えてあげたでしょ?」
「でも、意外といいやつだったよ?」
「結果そうなっただけでしょ?相談してくれたら、私だって協力してあげたよ?」
「由美を巻き込んだら危険になると思ったんだ。だから、悠太郎と琢也にお願いしたんだよ」
「玲美がわたしのことをそう心配してくれるように、わたしだって玲美のことが心配なんだよ?」
「ごめんなさい……どうしたら許してくれるの?もう、私のこと嫌いになっちゃった?」
「もう……嫌いになれるわけないでしょ?」
「由美……クラスが変わったら、もう離れてっちゃうかもって思ってたよ……」
「ずっと親友だって言ったでしょ?」
「頼って……いいの?」
「頼っていいんだよ」
「……由美ぃ……」
「ほら、鼻水。ごめんね、ちょっと焼き餅焼いてたかも。ほら、おいで」
由美の胸を借りて泣いた。
たぶん、鼻水付いた。
******
「さてと、落ち着いたなら、みんなのところに行きましょうか」
「え?」
「みんなそこにいるんだけどね……」
振り返ったら、悠太郎達が居た。
うげっ、嫌なところを見られてしまった……。
「俺の胸も貸そうか?」
謙輔がニヤニヤしながら言ってくる。
「……いえ、結構です」
「全く、渡辺にあれだけ言える奴が、由美には形無しだな」
「ほっといてください」
「転んだ時は冷や冷やしたよ。由美がすぐ走ってったから、黙って見てたけどさ」
「そんなところから見てたの!?」
「日高さんって、明川さんの前では泣き虫なんですのね。意外だわ……」
「恥ずかしいです!恥ずか死してしまいます!」
「ウフフッ、ほんと玲美の言うとおり、いいやつだね。ねえ、渡辺君、玲美のことお願いね。わたし、クラス離れちゃってずっと一緒にはいられないから」
「任せておけ。無茶せんように見張っておく」
結局、みんなに迷惑を掛けてしまった。
私は駄目なやつです。
「そういえば、由美って何で吉田さんがいじめられてるかって知ってるの?」
「なんだっけ?親は近付かない方がいいって言ってたけど。呪われるわよぉ、って」
例の情報の発信源は由美のお母さんか。
「あー、お前も知らないのか。沢木はどうだ?」
「クラスでは、彼女は貧乏だからっていうことくらいしか聞いてなかったですね」
「そっか……うちに帰って例の記事でも見せるか」
「会議の時に見せれば良かったっスね」
「すっかり忘れてた!スマン!」
こうして、私達はまた謙輔の家に戻った。
******
「へぇ……これが、真相か」
「予想以上に重い問題でしたね……だから貧乏なのか……ううむ……」
「たぶん、母子家庭だろうしな。そうかんがえると、オレ達って幸せだよなぁ」
「うん……そうだね」
「じゃ、納得してもらったところで、お開きにするか」
「あ、そうだ、ついでに渡辺君に聞きたいことあるんだけど、いい?」
由美、何聞くつもりなの?
変なこと聞かなきゃいいけど。
「何だ?俺は心が広いからな。何でも聞け」
「渡辺君のお父さんが、学校に献金してるって本当?」
あ、それか。
たしかに気になるね。
「あー、それな。そんなことしてると思うか?」
「してないの?」
「それこそデマだデマ。どこからそんな噂が流れたんだか……」
「じゃあ、謙輔達が暴れた時に先生が止められなかったのって何でだろう?」
「さぁ……今までの担任もそうだったからな。俺のことが単純に怖いんじゃねえの?」
「謙輔さん、今まで散々暴れまわってましたからね」
「そういえば、江藤君達ってずっと謙輔と同じクラスなんだよね?何で?」
「え?俺達が謙輔さんと同じクラスになったのは2年ぶりなんだけど……?」
「俺がしょっちゅうお前らをクラスに呼んでたから勘違いされたんじゃねえか?」
「ああ、そういうこと……」
「噂って、本当にあてにならないな」
こうして、余分な謎も解けて、会議は終了したのだった。
襖を開けると、なぜか謙輔のお父さんがしゃがんで待機していた。
いつの間にか帰って来ていたらしい。
たぶん、出るタイミングを見計らっていたんだろうな……。
気まずい空気が流れる。
いえ、私達は何も見てないです。
それじゃ、お邪魔しました。
急いで書いたので変なところあるかも知れません……。




