02:消えていく記憶
第2話です。よろしくお願いいたします。
※レイアウトと文章を少し変更しました。
どうやら俺は女に転生したらしい。
たぶん、神様が最後に言ってたのはこのことだな。
生まれ変わった先は、普通の家庭といった感じのところだ。
父は日高幸治、普通のサラリーマン。優しそうな眼が印象的。
母は佳恵、よくいる専業主婦だ。おっとりした美人さんだ。
俺は玲美と名付けられた。
レミって家○き子かよ、と心の中で突っ込みを入れたのは内緒だ。
今のところ一人っ子のようで、兄弟や姉妹は見当たらない。
それにしても、ここまで長かった……。
ようやく体が少しずつ動くようになってきたのだ。
今、俺は1歳だ。
まだ、ペンを握ったりはできないが、何らかのメッセージを残したりできないだろうか。
例えば、この離乳食を使って何かメッセージを……うん、腐っちゃうね。
離乳食をいじっていたらお母さんがやってきた。
「あらあら玲美ちゃん、離乳食はお気に召さなかったのかな?おっぱい飲む?」
あ、恐縮です、奥さん。
別におっぱいが欲しかったわけじゃないんだけど、免疫力に影響があるらしいのでいただいておく。
……やましい気持ちはないぞ。
せっかく動けるようになったのに、やれることはほとんど無いな。
これまで寝て、起きて、食べて、出して、泣いて、笑って、また寝るというサイクルを続けてきたけど、元が社畜の俺にとっては苦痛の毎日だった。
赤ちゃんっていうのも、やることがなくて逆に大変なんだなとしみじみ思った。
******
一年ほど経った。
やれることは増えた。
俺は紙とペンを使って、メッセージを残しすことにした。
別にヒントとして残すつもりは無いので、書きたいことをダイレクトに書く。
ただ、あまり綺麗な字は書けない。
長い文章も書けない。
それに、肝心なところで文字を間違えてしまう。
頭ではわかっているのに、本能がそれを許さない感じだ。
漢字は書けそうもないので、全部ひらがなで書いた。
肝心なところが本能に負けてしまい、逆の文字でしか書けなかった。
これに関しては仕方がない、ヒントを何か書き足しておこう。
たぶん、俺ならそれでも気付いてくれるはず。
メッセージは、片隅に余っていた洋菓子のボックスにこっそりと入れてた。
絶対に忘れてはいけないのは、あの子をいじめから守らなくてはいけないということと、タイムリミットは小学5年生いっぱいということだ。
主犯格の奴も今の俺なら知っている。
こいつがまた厄介な奴なんだけど、メモに残しておいたので、何とか対処できるかもしれない。
もうあと1年ほどで、今の俺の記憶は消えてしまう。
女に生まれたのは逆に考えれば好都合だった。
前の俺に突破できなかった『壁』も、これなら何とかなる可能性がある。
ただ、同性に生まれてしまったことで俺の初恋は実らないものになってしまった。
それでも……彼女を救うことができたなら、俺はきっと笑顔でいられる。
死んでからも苦しみ続けるなんて、あまりにも可哀想じゃないか。
******
遂に3歳になった。
俺の記憶のタイムリミットが近づいてるのがわかる。
この頃、意識がふっと消えそうになるんだ。
未来の俺へのメッセージは残せたと思う。
それを全部思い出せるかどうかは、未来の俺次第だ。
だけど、絶対思い出せる。いや、思い出さなくてはならない。
七五三、慣れない服で動きにくい。
千歳飴がおいしいです。
「ここまで元気に育ってくれてありがとう、玲美ちゃん!」
お母さんだ。お母さん。
新しい人生でのお母さん。優しくも時々厳しかったお母さん。
俺はお母さんに抱きつく。
俺が居なくなるわけじゃないけど、今の俺の意識が消えてしまい、新しい俺じゃない何かになってしまう怖さがある。
「どうした?今日の玲美は甘えんぼさんだなぁ」
お父さん。優しいお父さん。
二人とも、前世の俺の年齢的にお父さんお母さんというより、お兄さんお姉さんという感じだったけど、二人と過ごした穏やかな日常は、俺にとって宝でした。
「おとうさん、おかあさん、だいすきです……いつもありがとお……」
「どうしたの、ほんとにもう……」
そう言って、そっと俺を抱きかかえるお母さん。
優しく頭を撫でてくれるお父さん。
俺は、残された時間を大好きな両親と一緒に過ごした。
お父さんとお母さんの似顔絵を描いた。
俺の大事な大事な思い出……。
真っ白な空間が広がっていく。
あの時に少し似ているな……前世の記憶の俺、さよならだ。
生まれ変わった俺、どうかあの可哀想な少女の悲惨な過去を変えておくれ。
俺は、薄れゆく意識をそっと手放した。




