19:作戦会議(1)
第19話です。サブタイトルに(1)とありますが、(2)はもうちょっと先になります。よろしくお願いいたします。
翌日、クラスに行くとまた吉田さんの机に花瓶が置かれている。
謙輔達をチラッと見ると、違う違うと首を振っている。
じゃあ誰が今回は誰がやったんだろう……?
河村智沙を見てみる。
絵に書いたような優等生の模範と言える容姿。
三つ編みに、眼鏡というどちらかというと地味目の少女だ。
目付きも穏やかで、品行方正。
いじめなんてしそうに見えない。
普段の授業態度も優秀で、成績も上位の非の打ちどころのない感じだ。
メモという事前情報が無ければ、疑う人物からは完全に外れていたと思う。
3歳までの私が、気を付けろと忠告している人物ではあるんだけど、何の動きが無いまま問い詰めても意味がない。
尻尾を掴めればいいんだけど……。
吉田さんの机の花瓶は、謙輔達がふざけて遊んでいる振りをして、上手い具合にぶつかって割った。
謙輔達なりの吉田さんへのフォローだと思うけど、破片は危ないから怪我だけはしないようにね。
吉田さんは今日は休みらしい。
先生の話によると、体調不良で、ということみたいだけど、いじめで心を痛めてしまったんじゃないかと心配だ。
******
給食の時間。
謙輔達は集まって食べるのをやめたみたいだ。
みんなに迷惑掛けちゃうもんね。
「渡辺君達、今日はどうしたのかな?」
「珍しく大人しいよね。もしかして、日高さん何か言った?」
野村さんと橋本さんが不思議がっている。
謙輔が私のことを好きみたいな噂があの日から流れちゃってるし、たぶんそのせいだ。
「私は別に何も言ってないよ。今までの行いでも反省したんじゃないの?」
適当に誤魔化しておこう。
まさか、日曜日のこと言うわけにはいかないし。
「なーんだ。私はてっきり、日高さんが『私と付き合いたいなら、もう悪いことはやめて!』みたいに言ったかと思ってたのにさ」
「そんなこと、言うわけないじゃん。それに付き合ってないし」
「そうなんだ、詰まんないなー」
どこまで話進んじゃってんの?
女子の噂話って怖い。私も女子だけど。
「でもさ、日曜日、ボウリング行ったんでしょ?渡辺君とはどこまで行ったの?」
家にまで行きました。
……じゃなくて、二人とも、どうしても私を謙輔と付き合わせたいのか。
「別に、何も無いよ。私の友達も居たし」
「えー?せっかくの玉の輿のチャンスなのに、もったいないよー」
「渡辺君、性格は良くないけど、家がお金持だし見た目も結構良いもんね」
「じゃあ、橋本さんが告白してきたら?」
「えー?怖いからやだよー」
ガールズトークって、何か疲れる。
特に恋愛系は苦手だ。
私は、男子をなぜか恋愛対象に見れないんだよね。
恋愛って言うよりも、たぶん友情とかのほうが強い感じ。
あ、でも、吉田さんを見るとなぜかドキドキしてしまう……。
もしかして、私ってそっち系……?
いやいやいや、違うよ?
ちゃんと、由美達とアイドル雑誌見たりしてる時はかっこいいとか思ってるから、きっと違うと思うよ?
******
放課後。
私達はまた、謙輔の家に集まっていた。
例の座敷に通されて、ちょっとした会議を始める
メンバーは、悠太郎、由美、朱音、達也、順に私を含めたいつもの6人と、
謙輔、森山さん、江藤……あれ?坂本は?
「謙輔、坂本君は今日も居ないの?」
「何か用事があって出れないんだとよ」
ボウリングの時も居なかったし、何か引っかかる。
単純に用事が被ってるだけかもしれないけど。
「まさか、渡辺君の家に来ることになるなんて、思って無かったよ」
「ぼ、僕もびっくりです。まさか渡辺君と仲良くなってるなんて思っていませんでしたから」
「私はまだ貴方を許していないんだけど」
あ、朱美は謙輔が琢也を殴ったこと聞いてたんだ。
悠太郎に知られるよりはいいけど、朱音も怒ったらなかなか引かないからなぁ……。
「それについては、俺が悪かった!何度謝っても済むことではないと思うが、勘弁してくれ!」
深々と頭を下げる謙輔。
「も、もう、だったら最初からしなければよかったのに!」
「ん?給食こぼした話だっけ?」
あ、馬鹿、悠太郎は知らないんだってば!
「ちが」
「そうそう、その話だ!な!?」
「え、ええ……?」
もう、後で悠太郎にも話してしまった方が早いか。
そんで、謙輔は1回殴られたらいいよ。
「ともかく、今は今後の吉田のことについて話し合おう」
謙輔の号令で、ひとまず静かになる面々。
由美がさっそく手を上げた。
「わたし、まだちょっと混乱してるんだけど、吉田ってあの吉田恵利佳さんのことだよね?」
「そうだよ」
「あの子には関わらない方が良いって、みんな言ってなかったっけ?渡辺君もいじめてたよね?何でこんなことになってるの?」
「由美には話していなかったけど、私は吉田さんをいじめから助けることにしたんだ」
「……そうなんだ」
「由美は、吉田さんのこと嫌っていたんだっけ。前に言ってたもんね」
「わたしだけじゃないよ、みんなそう思ってたはずだよ?何で急にそんなことになったの?何で玲美は私が忠告したのに、吉田さんに関わろうとしてるの?」
「何でって言われても……それは、吉田さんが辛いって言うから」
「だから、わたしは玲美のこと心配して言ってたんだよ?辛いって言ってたってことは、あれほど言ったのに関わったってことだよね?違うの?」
珍しく、由美が私に対して怒りの表情をぶつけてくる。
たしかに私が取った行動は、由美が言ってくれたことを不意にしたかも知れない。
でも……
「おい、お前ら、そういうことなら後でやってくれ。話が進まん」
「ごめん……」
「……」
由美は何も言わなかった。
ただ、怒って帰るということは無さそうだ。
後からきちんと話し合わなくちゃ。
「今日さ、また花瓶が置いてあったよな」
「ああ、あれか。あれを置いたのは、小岩井だ」
「え!?」
「俺もすぐにとっちめてやろうと思ったんだがな、どうも様子がおかしい。吉田が来てから断罪してやろうと思ってたんだけどな」
「そうだったの……」
小岩井、あの馬鹿!
いくらアホでも、いじめとかはしない奴だと思ってたのに何で……!
「そういえば、玲美は何か気付いたことがあったか?」
「ううん、吉田さんも今日休んでたし、女子達の間でも吉田さんの話は出なかったから」
「加奈も何か聞いてないか?」
「残念ながら、玲美さんと同じですわ」
「俺も、小岩井以外のことはわかってない。吉田が今日休んじまったのが痛いな」
「そういえば、吉田のこと、悪く言ってたのがオレのクラスにも居たな」
悠太郎が思い出したように言った。
「そっちにも吉田さんをいじめる奴いるの!?」
「たぶん、吉田さんと同じクラスだった人が居るだけだと思いますよ」
「ああ、そんなこと言ってた。でもまぁ、吉田を救うってことは、そういう奴らの考えも変えて行かなきゃいけないんじゃないか?」
「そうなるな」
こうなってくると、吉田さんを悪く言う相手は、ほぼ学年全体に居るってことか。
下手すると、学校全体にも関わってくるかもしれない。
「気の遠くなるような話だ。俺達が卒業するまでにですら終わるかどうかわからん」
ため息をつく謙輔。
結局今話し合っても、妥当な解決策は見つかりそうにない。
「吉田も含めて話し合いをした方が良さそうだ。この話し合いは、今度にしよう」
こうして、会議は終了した……かと思った。
「あのさ、次からわたしはこの会議出なくていいかな?」
ああ、そうだ、由美のことが残っていた。
その表情は、いつもの由美とは違う。
誰にでも優しい、あの由美のものじゃない。
「強制ではないからな。玲美が仲間の意見も聞きたいと言うから呼んだだけだ」
「そっか……じゃあ、わたしは帰るね」
「待って、由美!」
「……何?放してよ、わたしは部外者なんだから関係無いでしょ?」
由美からの突き刺さる視線が痛い。
でも、私はここで由美の手を放すわけにはいかない。
今までも、これからも、クラスは違っちゃったけど私の大事な親友の由美。
きっと、ここで手を放してしまったら、もう由美は戻ってこない……そんな気がする。
江藤「俺達の方が会議にいらないんじゃないっスかね……」
森山「そうかもしれませんわね……」




