16:初めてのボウリング(2)
第16話です。よろしくお願いいたします。
「じゃあ、俺から行くぜ!」
渡辺が一番手に躍り出た。
投げる順番は、渡辺側が、渡辺・森山・私、琢也側が、琢也・悠太郎・江藤の順だ。
一応、私は初心者ってことで一番最後にしてくれたらしい。
みんなボウリングやったことあるのね。
渡辺の投げた球は凄い速さで滑って行く。
そして、あっという間にピンに接触し、ドカーンと弾けた。
あれ?両端に1本ずつ残っちゃったね。
「クソッ!!」
憤慨する渡辺。
何で?いっぱい倒れたじゃん。
「スプリットだね」
「わかってる!いちいち言うな!」
悠太郎がよくわからない言葉を放った。
あんまりよくない状況らしい。
たしかに、両端1本ずつを倒すのは難しそうだ。
「絶対倒す!!」
また凄い勢いのボールを投じる渡辺。
一直線に右端に向かって、1本だけ倒れた。
「駄目か、クソッ!!」
「次は俺だ」
琢也が前に出る。
2つのレーン使ってるから、二人とも一気に投げればいいのに。
「何で二人一遍に投げないの?」
「隣の人が投げるタイミングに釣られちゃったりするからね。交互に投げるのがマナーなんだよ」
そうなのか。
ボウリングにもマナーなんてあるんだね。
「おりゃっ!」
琢也の投げたボールも真っ直ぐ滑って行く。
そして、ピンが弾けて1本だけ残った。
「凄いね琢也!」
「よし、順調順調。スペアはもらったぜ」
「はーずーせー」
何て心の小さい男だろう。
琢也は順調にスペアを取り、森山さんの番になった。
「伊藤様のキスは私のもの……フフフ……」
何か怖い。
「愛の力を見せて差し上げますわ!!」
投げたボールはゆっくりと真ん中に向かって転がって行く。
そして、パタパタと6本倒れた。
「次もこの調子で行きますわ」
森山さんの2投目は、3本倒れた。
「さて、次はオレの番だ」
「伊藤様ー!!がんばってー!!」
森山さん、勝って悠太郎からのキスを貰うんじゃなかった?
「……そらっ!!」
琢也達ほど速くないけど、綺麗な投げ方で投げる悠太郎。
でも、そんな端っこの方に投げて大丈夫なの?
と、思っていたらボールが綺麗に真ん中によって行き、全部のピンが弾けるように飛んだ。
「キャーッ!!ストライクですわー!!日高さん、見ました!?」
「あ、うん、見たよ。すごいねー」
あなたの叫び声が凄いです。
「さ、私も投げてみよっと」
最後かと思ってたけど、渡辺が先に投げ始めたから江藤よりも先になってしまった。
これ、どの指入れたらいいんだ?
「親指と中指と薬指を、こうやって入れるんだよ」
「あー、そういうことね」
さすが悠太郎、わかりやすい。
「俺が教えようと思ったんだ」
「誰が教えたって一緒じゃないか」
さて、気を取り直して、と。
投げ方は見てたからだいたいわかったよ。
「えいっ!!」
お、真っ直ぐ行った。
そして、ガシャーンと弾ける。
1本残っちゃった。
「玲美、お前……初めてなんだよな?」
「うん」
「女の投げる球じゃねえ……」
琢也が何か失礼な事を言ってる気がしたけど、まぁいいや。
さて、2投目、と。
「えいっ」
端っこに残ってるピンを狙ったんだけど、ちょっとずれてしまった。
「惜しかったな」
悠太郎が、私の健闘を称えてくれた。
初心者なんだし、最初から上手くはいかないよね。
そして、江藤も準備に入る。
手に風をブワーっと当ててる。
あれ、面白そうだし次は私もやってみよう。
「それっ!!」
ボールは端っこの方に進んでいき、3本だけ倒れた。
「女子に負けてんじゃねーか」
渡辺さん、言わんといてあげて。
江藤は次で5本倒して、全員の1巡目は終わった。
その後、9巡目まで終わり、私達のスコアは
渡辺:130
森山:74
私:93
琢也:129
悠太郎:121
江藤:83
と、なっている。
渡辺も琢也も、パワーでどんどん倒していった感じだ。
悠太郎は、綺麗な投げ方で安定してる感じ。
勝負は10巡目に持ち越された。
渡辺と琢也と悠太郎の勝負だ。
渡辺から投げ始める。
「行くぜ!!オラァ!!」
ボールは真っ直ぐに進み、全部のピンが弾け飛んだ。
「おっしゃぁぁぁあああ!!」
ストライクを叩きだした渡辺。
その後、2投投げて9本倒した。
10巡目はスペアかストライク取ると余分に1回投げれるらしい。
スコアは149と表示されている。
「やりましたわね、渡辺様!」
「フッハッハ、任せろ!玲美のキスは俺が貰った!!」
え、その約束まだ生きてんの!?
神様、仏様、琢也様、勝ってくださいませ!貞操のピンチです!
こちらを見て頷く琢也。
「とりゃっ!」
全部のピンが倒れた。
「すごーい!!」
「よし、この調子で行くぜ!」
その後、琢也は2投投げて合計8本倒した。
スコアは147と表示されている。
……駄目じゃん!!
「わりぃ……負けちまった」
だ、大丈夫、まだ悠太郎がいるよ!
……そう思いながらも青ざめる私。
「次は私ですわ!伊藤様!もし最後をパンチアウトで終えられたら、キスしていただいてもよろしくて!?」
さり気にルール改変する森山さん。
「いいよ」
あっさりと了承する悠太郎。
「愛のパワーでストライクですわー!!」
6本残りました。
その後、意気消沈で投げた森山さんは2投目で5本倒して、スコアは83で終わった。
「さて、オレの出番だな」
「悠太郎!お願い、勝って!」
風の吹き出るところに手を当てながら、私は悠太郎にエールを送った。
風が手に当たるのって、ちょっと気持ちいいです。
「負けるわけにはいかなくなったね……まぁ、見てて」
慎重にフォームを整える悠太郎。
今までの投球より真剣さが伝わってくる。
「はーずーせっ!はーずーせっ!」
渡辺うるさい。
「そらっ!!」
綺麗な弧を描いて中心に向かうボール。
全部のピンが弾け飛び、見事にストライクだった。
「よしっ!」
「くそーっ!!次は外せーっ!!」
渡辺うるさい!悠太郎凄い!今だけはあなたの負けず嫌いに頼るよ!
「例の賭け……」
「え?」
「次も取る!!」
「取るなー!!はずせー!!」
「せいっ!!」
ボールはカーブしながら真ん中へ吸い寄せられていき、お手本のように綺麗に弾け飛んだ。
「よし!」
「キャーッ!!伊藤様ーッ!!」
大はしゃぎのファンクラブ会員森山さん。
10本を2回倒したから、もしかして勝てた?
「まだだ!9本以上倒せなきゃ、俺の勝ちだ!!」
9本も!?
お願い、悠太郎、外さないで!!
「大丈夫だよ」
そう言うと、悠太郎は綺麗なフォームで最後の1投を投げた。
そして、ピンは全て弾け飛んだ。
スコアには151と表示されている。
悠太郎が勝った。
「キャーッ!!伊藤様!!素敵過ぎます!!キスしてもいいですか!?」
「やったー!!悠太郎、やったね!!」
「大丈夫だと言っただろ?」
そう言いながら、額の汗をぬぐう悠太郎。
結構ギリギリの勝負だったんだね。
その後、私も投げてスコアは101。
江藤は92で終わった。
熱戦の繰り広げられた5年3組ボウリング大会は、悠太郎の優勝で幕を閉じた。
「初めてボウリングやった女がいきなりスコア100超えてんじゃねえよ……」
琢也が何か言ってたけど、褒め言葉として受け取っておこう。
小学生のスコアじゃないですよね……。




