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12:王様と家来達

第12話です。暴力などの表現がありますので、苦手な方はご注意ください。

※レイアウトと文章の修正を行いました。

 恒例の自己紹介。


 相変わらず、趣味は読書で通しておいた。

 マンガだって立派な読書じゃないか。


 もうすぐ男子の最後の番号、渡辺の番だ。


 琢也達があれほど警戒する男。

 見た感じは、ちょっと派手目で赤茶っぽい髪色をしたやんちゃな奴という感じだ。


 一体どんな自己紹介するんだろう。



「渡辺謙輔だ!調子に乗ってる奴は潰させてもらうんでヨロシク!」


 見たまんま、ただのヤンキーだ。

 あーでも、関わらない方がいいなって言うのは何となくわかる。


「おまえらぁ!!謙輔さんがヨロシク言ってるじゃねえか!!」


「しっかりヨロシクしねえか!!」


 そう叫んだのは、江藤晶えとうあきら坂本秀治さかもとしゅうじという男子二人だ。

 しっかりヨロシクってなんだよ。自己紹介とは関係ないよね。

 

 ほら、みんなシーンとしちゃってるじゃん。

 先生も何か注意したりとかしないの?


 あ、駄目だ。

 新担任の大島高志おおしまたかし先生、完全にうつむいて黙っちゃってる。

 学校にも寄付してるって聞いた話、いよいよ真実味を帯びてきた。


「お前ら調子くれてんの?マジでシメっから」


 私達、進級直後にさっそくシメられるらしい。


「皆さん、渡辺君によろしくしなさい」


 あ、担任折れた。

 大丈夫なのか、この学校。


「まぁまぁ、渡辺様。皆さん初日でとまどってらっしゃるのよ」


「しょうがねえな。加奈もこう言ってることだし、今日のところは勘弁してやるよ」


 すぐ後ろから声が聞こえた。


 森山加奈もりやまかな

 渡辺の彼女か何かだろうか。


 そんなのがすぐ後ろにいるなんて、何か嫌だな……。



******



 始業式恒例の掃除。

 これが終わったら帰れる。


 さっさと終わらせて、さっさと帰ろう。


「おう、西田ァ、久しぶりじゃねえか」


 さっそく渡辺に絡まれる琢也。

 たしか、一度ケンカしたって言ってたな。


「おう……久しぶりだな」


「なんだよお前、元気ねえじゃねえか!旧友との再会だぜ?」


 いちいち喋りがウザいなあの不良。

 琢也とお前が友達なわけないだろ。


 てか掃除しろよ、お前も。


「……元気で何よりだよ」


「だよな?だよなァ?2年間寂しかったかぁ?」


「別に、どうでもいいだろ」


「つれないじゃねえか、なぁお前ら」


 江藤と坂本がバックに控える。

 あの二人は、渡辺の子分みたいな感じだ。


「久しぶりに、戦おうぜぇ!!オラァ!!」


 二人が琢也を押さえつけ、渡辺が一方的に殴る。

 琢也はそれを黙って受けている。


 やめさせなきゃ――――

 私が駆けて行こうとすると、順が前に立ち、琢也はチラッとこっちを見ると、また目を前に向けた。


「……行ったら駄目です」


 順が小声でつぶやく。


 友達が殴られてるんだよ!


「もう少しで収まります」


「でも……」


「我慢してください……」


 順が震えている。

 順も、我慢してるんだ。


「すっかり腑抜けちまったなぁ、西田ァ」


「……まぁな。だからもう、ほっといてくれ」


「つまんねーやつだ、行こうぜ」


 渡辺は子分を引き連れて教室を出て行った。



「琢也!大丈夫!?」


 解放された琢也は、口から出る血を腕でぬぐっていた。


「イテテテ……まぁ、このくらい何でもねえよ」


「酷いよ……何もしてない琢也をこんな一方的に」


「まぁ、これで済むなら安いもんさ。それよりもお前、出てくるんじゃないかって冷や冷やしたぞ」


「僕がすぐ止めましたから」


「だって」


「だってもヘチマモ無い。あいつには関わるなって言っただろ」


 そう言って、私の頭をポンポンと叩く。

 その手は、微かにだけど震えていた。



******



 掃除も終わって、ホームルームも終わり帰宅時間となった。


 あれから渡辺が琢也に何かをするっていうことは無かった。

 抵抗をしない琢也に飽きたのだろう。


 私達は由美のいるクラスに向かった。

 1組は先に終わってたみたいで、悠太郎が既に来ていた。


「な!? どうしたんだ琢也、その顔は」


 悠太郎が心配そうに琢也の顔を覗き込む。


「何でもねえよ、ちょっとこけただけだ」


「こけたって、そんな顔にはならないだろ」


 ホームルームを終えて出てきた由美も朱音も、心配そうに琢也を見ていた。


 みんなには言うなって言われてたから、私も順も何も言わない。

 悠太郎はわかっていないけど、他のみんなは事情がわかっているようだ。


 悠太郎に言うと、きっと渡辺に仕返しに行く。


 だから、誰も何も言わない。


「琢也君を保健室に連れて行くから、先に帰ってらして」


 朱音は琢也に連れ添って、保健室に向かった。



「玲美、何があったんだ?」


 悠太郎が私に聞いてくる。

 その表情は、どこか悲しそうで、どこか厳しくて、思わず黙ってろと言われたことでも言ってしまいたくなる。


 でも、私は言わない。


「何でも無いよ……琢也が転んじゃっただけだよ」


「そんなわけないだろ!!」


 悠太郎は良い奴だ。

 友達思いな奴だ。


 琢也の顔の怪我は、どう見ても殴られた痕だ。

 口の下は切れて、腫れてしまっている。

 目だって、片方が塞がりかけるほど殴られてた。


 言ってしまえば、悠太郎は渡辺のところに行く。


 悠太郎は、たぶん普通の男子よりもケンカが強い。

 あの頃より背も伸びて、すっかり男らしくなった。


 悠太郎なら渡辺に勝てる?

 無理だ、あっちは仲間が大勢いる。


 それでも、きっと悠太郎は友達のために向かっていく。

 そういう奴なんだ。


 私だってそうしたいくらいだ。


 でも、そうすると、琢也が耐えていたことが、無駄になってしまう。 


「ごめん、でももう終わったから……大丈夫……」


「……いや、強く言って悪かった」


 悠太郎は、それ以上は聞いてこなかった。



******



「大変なクラスになっちゃったね……」


 帰り道、由美がいろいろと話を聞いてくれた。

 そのおかげで、少しだけだけど心が軽くなった気がする。


「一緒に居たのって、江藤君と坂本君でしょ?」


「うん……」


「あの二人ね、毎回、渡辺君と同じクラスになってるらしいよ」


「もしかして、それもお金の力で?」


「そう思いたくないんだけどね……そうかも」


 去年までは、本当に楽しかった。

 素敵な仲間たちと出会えて、幸せなだった。


 それを、渡辺達に台無しにされてしまった。


 悔しい。

 目の前で友達が殴られて、痛い思いをしてるのに、私は見ているだけしかできなかった。




「玲美……胸なら貸すよ?あんまり無いけど」


「……ちょっと借りてもいいですか?」




 私は、由美の胸に顔をうずめて静かに泣いた。


 鼻水ついてたらごめん……。

実際には、公立小学校で賄賂とかあるわけないんですけどね。

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