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11:洋菓子の箱

次からがいよいよ本編です。よろしくお願いいたします。(章ってどう分けるんだろう?)

※レイアウトと文章の加筆修正を行いました。

 由美からもらった四つ葉のクローバー。

 綺麗に押し花にして、大事にとっておいた私の宝物だ。



 昨日の由美の言った言葉が、ずっと私の心に突き刺さっていた。



 あんな風に人を貶す言葉を言う子じゃ無いと思ってた。

 由美だって人の子だ。完璧な訳じゃない。

 それに、あれは私を思って言ってくれたのだと思う。


 吉田さんのことは、私は全く知らなかった。

 かなり有名だったようで、吉田さんが自分のことを知らない私を不思議がっていたのも、そのせいだろう。


 由美でさえ知っていたほどだ。

 幾つもの偶然が重なって、たまたまその噂が私に届くことは無かった。


 古びた洋菓子の箱を手に取る。

 由美から四つ葉のクローバーをもらった日に見つけた箱だ。


 ホコリだらけだったけど、なぜか愛着がわいた。

 それ以来、大事なものは全てこの箱にしまってきた。


 この箱の中には、つたないミミズの這ったような字で何かが書かれている紙が入っていた。

 何かのメモだろうか?


 数枚のメモ。

 平仮名で書いてあるそのメモには――――


 『さ ち に き お つ け ろ』?

 『ご ね ん が お わ る ま で』?

 『え い か お た の む』?

 


 ――――こんなようなことが書いてある。

 メモの裏には数字?が書いてあるものもある。


 あとは、何か人の絵かな?


 その他にも、折りたたまれた紙のようなものが入っていた。

 紙をほどいてみると、千歳飴の袋だった。


 何でこんなものが入っていたんだろう?



 ごねんがおわるまで……五年が終わるまでっていう意味かな?

 あとはよくわからない。

 

 かろうじて読めるメモだけでも、どういう意味か考えてみよう。


 五年って何のこと?

 五年経ったらということなら、5歳が終わるまでということかな?

 それなら、もう過ぎちゃってる。


 さちにきおつけろ……幸ってこと?

 幸に気を付けるってことかな?

 よくわからない。


 えいかおたのむ……これが一番よくわからない。

 映画?詠歌?



 何のメモかわからないけど、何となくこれは捨ててはいけないもののような気がする。


 由美からもらった四つ葉のクローバーと一緒に中に戻した。





――

――――――

――――――――――――



 あれから数ヵ月が過ぎ、早いもので私は小学5年生に上がった。


 仲間達とは、ずっと仲良くしてきた。

 ただ、一緒に遊ぶ頻度は、進級が近付くにつれて減っていった気がする。


 

 クラス替えがあったので、貼りだされた名簿を見に行った。


 私は5年3組になった。


 由美は5年4組だった。

 同じクラスになった仲間は、琢也と順だけだった。

 さすがに6年間ずっと同じクラスは無いか。


 悠太郎は5年1組。朱音は5年4組。


 クラスが変わっても、私達は一緒に遊ぼうと約束をしている。

 離れ離れになっても友情はずっと変わらないよと悠太郎が言っていた。


 2年生の時仲の良かった友達は、クラスが離れると疎遠になって行った。

 今の仲間達はそんなことは無いと信じたい。


 再びクラスの名簿を見る。

 その中に、あの名前があった。


 吉田恵利佳――――――




「まずい奴がいるな」

 琢也が顔を曇らせていた。


「……吉田さんのこと?」


「いや、それよりも厄介だ」


渡辺謙輔わたなべけんすけ君のことですよ」


 順が小声で言った。


 男子の名簿の最後にある名前。

 初めて聞く名前だ。


「玲美さんは知りませんか?男子の中だけじゃなくて、女子の間でもある意味有名なんですけど」


「全然知らない。吉田さんみたいに、いじめにあってたの?」


「逆だ逆。こいつは、とんでもない奴でな。俺も一度ケンカしたことがあるんだけど、いろいろと面倒な奴なんだよ」


「昔から続く由緒ある家系の子孫らしくてですね、簡単に言うとお金持ちです」


「へー」


 何だかわたしの知らないことばかり出てくる気がする。

 あんまり人の噂とか話すの好きじゃないし、たぶんそのせいだと思うけど。


「学校にもいくらか寄付してるって噂ですね。俺様主義で取り巻きも多く、敵に回すと非常に厄介です。よく琢也さんケンカ売って無事でしたね?」


「無事じゃねえよ。2年の時だったんだけど、その後あいつの仲間にフクロにされたし」


 琢也が珍しく弱気な表情を見せる。


「さすがにケガだらけで帰ったから、オフクロも心配してた。だけど、あいつの名前を出したとたんに青ざめて、結局泣き寝入りさ。それからは俺もあいつとは距離を取っていたんだ」


「そういう相手です。吉田さんのこと言ってる場合じゃないですよ。あの人は女子にとっても危険な相手ですし」


「どういうこと?」


「狙った女子は、必ずどんな手を使っても手籠にするという噂です」


「てごめ?」


「無理やり付き合うってことです」


「それはやだな」


 こっちの感情無視して付き合うってことだよね。

 話を全部合わせると、お金持ちで俺様主義で、ケンカっぱやくて、女たらし。


 最悪じゃん、そいつ。


「そういうわけだから、玲美、お前も渡辺には気を付けろよ」


「たぶん、私は大丈夫だと思うけど。こんなチンチクリンじゃなくても、綺麗な子いっぱいいるじゃん」


「玲美さんは、結構可愛い方だと思いますよ」


「マジで?順は良い子だね。今度お姉さんがジュースをおごってあげるよ」


「しゃべらなければな……」


「どういう意味だ」


 そんなことをしゃべっていると、ある人の登場で全員急に静まり返った。



 吉田さんが登校してきたのだ。


 久しぶりに見た彼女は、どこかやつれているようにも見えた。

 登校拒否だと聞いていたけど、大丈夫なんだろうか。 



「さすがに、5年生ともなると休んでるわけにもいかないんでしょうね」


「ま、渡辺にしても吉田にしても、俺達から関わろうとしなければ良いだけの話だ。玲美、わかったか?」


「え?……う、うん……」


 こうして、新学期は波乱の幕開けとなった。


「日高、これで6年間ずっと同じクラスだな!」


 小岩井の名前が名簿に書いてあったのを、すっかり見逃していた。


 どうやら、どうでもいい記録がたったいま誕生したらしい。



 小岩井を無視すると、私達は始業式に向かった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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