10:神社にて(2)
第10話です。本編まであと少しです。よろしくお願いいたします。
※レイアウトと文章の加筆修正を行いました。
私達は4年生になった。
クラス替えは無いので、みんな同じクラスだ。
私達は相変わらず仲良しで、よく一緒に遊んでいる。
ちょっとだけ変わったことがあると言えば、佐島朱音。
彼女は伊藤ファンクラブの第一人者だったわけだけど、あれ以来すっかり琢也に乗り換えたようで。
琢也は琢也で、そんな朱音さんに迷惑しているみたいだけど。
由美はお菓子作りにはまったみたいで、家で作ってきては私達によく試食させている。
素人が作ったとは思えないほどのおいしさで、クッキーを食べるたびに順のよくわからないテンションの感想を聞ける。
なんだかんだで、私達は良い仲間みたいだ。
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「セミ取り行こうぜ!」
悠太郎と琢也が、虫取りアミと虫カゴを装備して家の前にいた。
「やだ」
私は玄関を閉めようとした。
悠太郎がさっと足を入れ閉まらないようにする。
どこぞのセールスマンかお前は。
「そんなこと言わずに行こうよ!」
「いーやーでーす!」
「由美達も来るって。もう電話しといたんだ」
「そうなの?由美達もか……てゆうか、なんで私には電話しなかったんだ」
「だって、集合場所そこの神社だし。お前んちと目と鼻の先だから、直接来た方が早いだろ」
神社って、すぐそこの神社でセミ取りするの?
琢也の言うとおり、たしかにうちのすぐ裏だけどさ。
「わかったよ。みんな来るなら行くよ。準備してくるから先行ってて」
「おう、じゃあ後から来いよ」
セミ取りね。
蚊に刺されるし、外暑いからあんまり出たくないんだけど。
でも、夏休みに入ってからみんなとあんまり遊んでなかったし、たまにはいっか。
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神社に行くと、みんなもう揃っていた。
由美は今日もクッキーを焼いてきてくれたみたいだ。
これだけでも来た甲斐があったかも。
「琢也、そっちはどうだ?」
「駄目だ、こっちにもアブラゼミとクマゼミしかいねえ」
二人はセミ取りに夢中だ。
わたしはなぜか虫カゴを渡されている。
「取れてんじゃん」
虫カゴの中でセミ達がうるさいです。
「違うんだよ、オレ達が狙ってるのはミンミンゼミなんだ」
「ほう、ミンミンゼミですか」
いつも通り順の講座が始まる。
「ミンミンゼミ。セミの中でも暑さに弱いという夏の風物詩らしからぬ特性を持ったセミです」
「玲美と一緒だね」
由美、私はセミじゃないぞ。
「そのため、比較的涼しい場所に生息しています。この地域にはまずいないんじゃないでしょうか」
「でも、1週間くらい前ミンミンゼミの鳴き声がしてたんだ。この神社には絶対いるんだよ」
たまたま悠太郎が通りがかった時、セミが鳴いてたらしい。
あー、そういえば最近うるさいセミが鳴いてたな。
あれがミンミンゼミなんだ。
「セミの寿命って確か1週間くらいじゃなかったかしら?」
「朱音さん、それは俗説です。大人になったセミは、1か月以上生きるのが普通ですよ」
「へえー」
順は本当にこういうことに詳しいな。
「でもさ、今鳴き声すらしてないし、やっぱいないんじゃないの?」
「んー、いると思ったんだけどなー。別の場所に飛んでっちゃったか?」
「もう少し涼しい時間になると戻ってくるかもしれませんね」
悠太郎は悔しそうだ。
「思い出したんだけど、4時頃だったかな?変なセミの鳴き声してたよ」
「お、つまり夕方が狙い目なんだな」
目を輝かせる悠太郎。
「最初から玲美に聞けばよかったね」
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「そろそろ休憩しようか」
由美がお茶とクッキーを用意してくれた。
ちょっとしたピクニックみたい。
「何で二人とも、そんなミンミンゼミにこだわってるの?」
「単純にこの辺じゃ珍しいのと、見たらわかるけど綺麗な色してるんだよ」
綺麗なんだ。
わたしもちょっと見てみたい。
「この子達とは全然違うの?」
由美がアブラゼミとクマゼミを指差して言った。
「全然違うぜ。もっと青っていうか緑みたいな色してるんだ。ばあちゃんちの方に行けば結構いるんだけどな」
「でも、実際いたとしても捕まえるのは困難だと思いますよ」
「ミンミンゼミは高い所にとまる傾向があります。普通の網ではまず届きませんよ」
「そうなったら木に登るか」
琢也は捕まえる気まんまんみたいだ。
そうしてる内に逃げちゃうと思うけど。
「セミ取りは口実みたいなもんだし。夏休みに、こうやってみんなで集まりたかったっていうのもあるしさ」
そっか、悠太郎さびしかったんだ。
登校日もあったじゃんっていうのは置いとこう。
「そういえば、お前ら宿題ってどこまで終わった?」
「私は日記と工作以外全部終わってるよ」
「わたしもそんな感じだよ」
「僕もです」
「私は半分くらいかしら?」
「オレ、まだほとんど終わってない」
握手をし、友情を確かめ合う悠太郎と琢也。
お前らほんと仲良いな。
――――――その時、誰かが近付いてくる足音が聞こえた。
境内に近付いていく人影が見える。
私は、その人影に見覚えがあった。
「吉田さん?」
あの時出会った少女がいた。
吉田さんは、こちらをちらりと見た。
挨拶でもしようかと思ったら、すぐ振り返り行ってしまった。
「玲美、あの子は駄目だよ」
「え?」
由美が厳しい表情で言った。
「玲美さんは知らないのですか?あの吉田恵利佳ですよ」
「オレも知らないんだけど」
「ああ、お前は去年転校してきたばっかだもんな」
みんな知ってるの?
わたしは全然知らないんだけど。
「私も吉田恵利佳のことならよく耳に入って来るわ。あまりいいうわさは聞かないけれど」
朱音も知ってるみたいだ。
何なの?
「わたしも、あんまり詳しいことは知らないんだけど、あの子に近付くと呪われるって聞いたことがあるよ」
呪われる?
由美が何を言ってるのかちょっとわかんない。
「それだけじゃないわ。あの子、ずっと学校で見ないでしょ?ずっと学校休んでるの。おうちが貧乏なんだって」
「着てる服もいつもボロボロだもんね」
「僕、彼女と1年のとき同じクラスだったんです。近付くと何とも言えない臭いがしましてね。それでいじめにもあってたみたいですよ」
「いじめ?」
「ええ、それで2年生の途中くらいから学校に来なくなったんですよ。先生からは来なくなった理由は聞いてませんけどね」
「まさか、こんなところで会うとは思ってなかったわ。結構有名な話だけど、なんで玲美は知らなかったのかしら?」
そこから、みんな吉田さんのことをいろいろ話し出した。
どれも、あまり良い話じゃない。
しきりに吉田さんのことを悪く言う仲間達。
「だから、玲美も吉田さんには近付いちゃだめだよ?」
ショックだった。
普段は誰にでも優しい由美が、こんなことを言うなんて……。
吉田さんは、もうどこにも見当たらなかった。
******
気が付いたら、もう夕方を過ぎていた。
ミンミンゼミは結局見つからなかった。
「じゃあ、また今度遊ぼうぜ」
「そうだな、また今度にしよう」
「あちこち蚊に刺されちゃったよー」
「いい気分転換にはなりました」
「また集まりましょう」
琢也の一声でセミ取りは解散になった。
わたしは何とも言えない気分がずっと晴れないままだった。
「玲美?どうしたの?なんか静かだけど」
「ううん、何でもない。大丈夫だよ」
みんな良い仲間だと思う。
それは、私もよくわかってる。
でも、それは私にとってはというだけで――――――
大丈夫。
そんな言葉しか出てこなかった。
そう、大丈夫。
何が大丈夫? 一体、何に対しての大丈夫なの?
自分でもよくわからない。
登場人物の会話が多くなってきました。なるべく誰が喋ってるかわかるようにしたいけど、変にリアリティー持たせようとすると難しいですね。




