完璧な世界
毎日が楽しい。と思っていた。
友達もいい奴ばかりで、皆でくだらないことをして遊んでいた。
母も「○○が元気でいればそれでいいよ。」と言ってくれた。
母の笑顔を見るのがなにより好きだった。
ある日、変な噂を耳にした。
保護者の間で、母が仲間外れにされているらしい。
教えてくれた奴の家にも、連絡が来たそうだ。
『あの家の子はバカでどうしようもないから』『あの家族なんて転校させてしまいましょう』
『ウチノ子ノ教育ニ悪イノデ』
知らなかった。
いつも笑っていた。
俺のせいで。俺のせいで。
俺は完璧になろうと決めた。
母が笑われないように。
母が笑えるように。
手始めに勉強をした。
頭はいい方ではなかったが、とりあえず毎日20時間ほど勉強してみたら、すぐにトップになれた。
母のためなら苦しくはなかった。完璧になるためだと思えば辛くなかった。
勉強している俺を見て、自慢そうに母は笑った。
部活にも入った。
運動は得意だったので、死ぬ気でやればすぐにレギュラーがとれた。
つまらないので部活を変えたが、そこでも俺がトップに立てた。
練習は苦しかったが、完璧になるためだと思えば気にならなかった。
母は笑いながら俺に言った。「そんなに頑張らなくてもいいんだよ。」
周りの奴とも疎遠になった。
俺が完璧になるためには、馬鹿なあいつらは不要だった。
完璧な俺の周りもまた、完璧でなければいけない。
それでも母は、悲しそうに笑った。
母。
完璧な俺の母。
あの女は完璧ではない。
完璧な俺の縁者が完璧でなければ、完璧な俺は完璧ではなくなる。
どうすれば完璧でない俺は完璧になれるのだろうか。
どうすれば完璧でないあの女を俺から取り除けるのだろうか。
どうすれば............................そうだ。
どこで道を間違えたのだろうか。
母に笑っていて欲しかっただけなのに。
母はもう戻らない。取り返しなんてつくはずがない。
誰にも知られるわけにはいかない。
完璧でなかった俺がやっと完璧になれたのだ。
完璧になる最後の瞬間、母は笑ってこう言った。
「今も昔も、○○は自慢の私の子よ。」
完璧になった俺は、一体何をすればいい?
完璧でなかった俺は、完璧な俺に何を望んだ?
完璧であるというのは、こんなにも悲しいものなのか?
そうか。
完璧な俺が完璧になっても完璧な気分になれないのは、
完璧な俺が完璧でないからではなくこの世間が、この世界が完璧でないからなのだ。
完璧でない世界は完璧な俺には相応しくない。
完璧な俺は完璧な世界に行こう。
母の待つ世界に。