90. 幽霊というのは同じじゃない。
「双子はともかく、俺が子供の頃から見えていたのが何故わかる? それに、イリイチよりナナシノが弱い? 向き不向きがあっても、幽霊というのは同じじゃないのか?」
キョトンとしたのが自分でも解った。
「同じじゃない」
どこまで説明しよう。
琥珀色の瞳の主がいない所で本人の話はしたくないし、そもそも<禍神>から頼まれてコチラにいる幽霊と、雌鳥からスルーされる幽霊を同列に考えてはいけない。
「地下室の対応で違いが分かると思うけれど、自分は〝あの世の入り口〟まで連れていけるが、それだけだ。イリイチみたいに双子を守れない。幽霊してても今までの経験が大きく作用するから個体差が激しいんだ」
でなきゃ自分が半死半生なのが、格上にバレるはずがない。
ちょっと迷ったが、ハルトマンの印象を話す事にした。今の自分にとって、直感が全てだ。
「それに、部隊長は場数を踏んでいると感じたんだ。そういうのは、たかが二・三年で培われるものじゃないから」
おまけに「スルーするのがマナー」というのを知りつつ幽霊にチョッカイ出せるような奴は、後天的に見えるようになった<人>には無い積極性がある。
自分的には突っつかれて傍迷惑だったが、相手を量るのにコレ程便利な基準はない。
ハルトマンが何かを言いかけ、手に持った濃紺の衣に視線を落とした。薄い唇を引き結んで、何かを黙考している。
つ、と青い瞳が自分を見た。
「医家には、親子を救ってもらわなければならない」
うん?
まぁ、そうだな。
「仕立物の作業が終わってからで良い。ナナシノにはコレを着てもらいたい」
は? なんで?
反射で思ったが、ぐ、と服を押し付けられる。そのまま手を離されて、落っことしそうになり思わず持ってしまった。
ハルトマンは、さっと屈むとバッグから装備品を次々と取り出し始めた。
自分は、ぽかんとした。
明らかに鞄の大きさと中身が合ってない。カリスマ収納でも不可能な量を積み上げたハルトマンは、漸くバッグの口を閉めた。
「医家と同郷の幽霊を、亡霊と同じと考えないが」
前置いた指揮官は一着を除けて、積み上げた衣服を自分の両腕にドサリと重ねた。
多っ。
「兵士で召霊する亡霊は何体かに分霊された後、板金鎧を依り代にして定着される。一見すると空の鎧だが、中に霊が入っている。ナナシノの言う、見えない連中と簡単な意思疎通が身振り手振りで図れる」
手元の服をさっさと着ながら、ハルトマンは事も無げに言った。
……。
ちょっと待って?