表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/106

86. 自分達みたいな幽霊は。

 皮手袋に包まれた手が、机の上の懐中時計の鎖を引き寄せた。

黙ったまま(フタ)を閉じてポケットの中に入れる様子は暗然(あんぜん)としていて、どうしていいかわからなくなる。幽霊だけど、死んだような目になっているのは気のせいじゃない。


「いや、あの、なイリイチ。銃はダメだが、今の自分達なら神殿の時みたいに()()ばしたりできるから。だからそんな落ち込まなくて良いぞ」


しどろもどろになって(なぐさ)めるが、琥珀色の瞳の主はうっそりしたままだ。


 いかん。

伝えたい事が(うわ)(すべ)ってる感触しかしない。


 オロオロした自分は、(ほとん)自棄(ヤ ケ)になって言った。


「仕方ないって。今までの経験に影響されるんだ。自分だって勝手に(さわ)られるのがダメな以外に、子供の頃から金槌(カナヅチ)(おん)()だし。この年齢(ト シ)で幽霊になっても(なお)らないから結局そのまま放置している」


 だから気にする事じゃない、と続けたかったが、本人の前では勢いも雲散(うんさん)霧消(むしょう)する。尻すぼみになって消えていく言葉に、イリイチは無反応だ。

あああ。どうすんだコレ。

 必死のフォローをハルトマン(づて)に聞いた医師が、目を丸くした。


「死んでも金槌と音痴は直らないのかい?」



 ほ っ と い て く れ な い か な ?



 イラァっとしたから、半笑いでハルトマン見た。ふい、と目を()らされる。

溜め息が出そうだ。


「……部隊長、ココでは自分達みたいな幽霊はどうなっているんだ?」


 何故か唇を引き結んだハルトマンの代わりに、イーラが答えた。


「亡くなった直後ならともかく、貴方達(あなたたち)みたいな人はいないわ」


 幽霊二人でイーラを見た。

青い瞳が真っ直ぐ射ていた。


「魔法の中に、召霊(しょうれい)術というのがあって死してなお利用されるの。魔術に(のっと)って()(ぶつ)を使役するから尊厳(そんげん)なんてないわ。人も動植物も亡霊になって、消滅するまで使われるの」


カンテラの明かりの(はず)れで、は、と息を吐いたイリイチは(つぶや)いた。


死霊術(ネクロマンシー)かよ」


「イリイチ」


 静かに(たしな)めた。

不満そうに見返す琥珀色の瞳に、覇気(は き)が戻っている。自分は安堵(あんど)して、そっと深呼吸をした。


「それじゃイーラ、水が(くぼ)みへ流れるように死者が集まる現象は?」


「ないわ。少なくとも今までは。術に(とら)われる前に、居合わせた誰かが火を()()けて(とむら)う決まりになっているから」


 イリイチが目を見開き、自分の眉が上がる。

事情が事情だから仕方ないが、第三者の立会いを待たないのか。

それとなく医師を見た。彼は厳しい顔で口を閉ざしている。ああ、この人は納得なんてしていないのか。


「そういう事なら来ない公算(こうさん)が大きいけれど、やっぱり粗塩(あらじお)は欲しい。浅い川も深く渡るのが自分のクセなんだ」


「……なら、準備するわ。アラジオ? は地下から()り出した岩塩(がんえん)でも大丈夫? (カタマリ)で買い付けてあるから、ハンマーで(くだ)いた後に()(うす)(おろ)(がね)で粉にする時間が要るのだけれど」


 岩塩か。

実験でしか使った事が無いが、多分いけそう。


 イーラに了承したところで、イリイチが言った。


「力仕事なら、オレが卸し金で粉にしようか?」


 え?


 部屋の全員が注目した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ