9. ビミョー。
イリイチはフリーズした。
……待て。
そんな目で見るな。好きで死んだンじゃねーから。
あと、「しまった」って顔すんな。頼むからオロオロしないでくれ。
ああ、もう、だから言いたくなかったんだ。
イリイチから視線を外し、床石を見て、天井を見上げて、……ため息を吐いた。出来ればやりたくない事に着手しないといけないときの、自分の癖だ。
死因説明なんて医者の領分だろうに。不幸自慢か。しかもビミョー。
「一回目は風邪で死にかけて、二回目の今は交通事故。自分のスプラッタを見たら……、後はもう怖いモンなんてないだろ。これも寿命だ」
イリイチは絶句している。
それから、恐る恐るといった風情で口を開いた。
「それは……、ご、ご愁傷様でした? で、合っている? のか?」
合ってねーよ。
即座に突っ込んだ。心の中で。
イタい自分が思うのもアレだが。
イリイチ……、お前、見た目どおり若ぇーな。
今のソレは死者に手向ける言葉じゃねーよ。
半笑いでイリイチを見たら、目を逸らされた。
口元を片手で隠していても動揺がダダ漏れだ、若造。
ふ、と空気が動いたのはその時だった。
自分とイリイチの視線が出入口の扉に釘付けになる。重厚な両開きの扉が、少し開いていた。
誰へともなく呟いた。
「突入か」
「ああ。……あの子達は大丈夫だろうか?」
……母親はスルーか。
ブレないなイリイチ。