79. 認識した。
じわ、とパニックが押し寄せた。
着るのはともかく和裁ってどうすればイイんだ? あれ? 肌襦袢って肌着じゃないか……身内でもない女の衣服を縫うってセクハラにならないか?
頭を抱えそうになったその時。
ふ、と。
自分の、子供の頃を思い出した。
宿題になったエプロンを、持ち帰って縫っていたときだ。
縁側で将棋を指していた祖父と隣家の爺さまが「自分達の時とは違う」と言っていた。
確か、……昔は教科によっては男女別だったって言ってなかったか。
男子生徒は技術分野、女子生徒は家庭分野と選択が決まっていて、分かれて授業をしていたとか何とか。
……。
自分ひょっとして女だと思われてる?
認識した瞬間、ダイジな何かがポッキリと折れた。
ガクリ、と力が抜けて両膝に手をつく。
視界の端でイーラとイリイチがビクリと肩を震わせたが、自分は現実逃避したくなっていた。
もうアレだ。
心境は……、落雷で半日分の作業データがフロア全逝きした状態に近い。あの時はキーボードに指を置いたままフリーズした。停電特有の仄暗い職場で、勤務中だったけれどウチに帰って寝たくなったっけ。
瞳を閉じて、目を開く。
ふらりと立って、木目の美しい床を見て漆喰の天井を見上げ、息を吐いた。
イーラとイリイチへ身体ごと向き直った。
「……準備をしたいので。イーラ、続き部屋の使用を許してもらっていいですか?」
「ええ、ええ。もちろん。今ドアを開けるわ」
心配そうに見ていたイーラは、すぐに部屋の前に立った。
貫頭衣のポケットから鍵束を取り出し差し込むと、ガチリと錠が噛み合って、重厚なドアが開かれる。
イーラは唇を開きかけて、つんのめる様に口を閉ざした。魔法で明かりを灯そうとして、思い止まったようだ。
「ランプを持って来るわ。先に入ってて。机や道具は適当に動かしてかまわないから」
歩き乍言う彼女にイリイチが頷いたのを見て、自分は部屋に入った。