表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/106

76. 忘れていた苦手意識。

 現れた先は親子が運ばれた部屋だった。

琥珀色の瞳の主は突然(とつぜん)の変化に驚いたのか、パッと手を離した。

騒動の前と違い、壁に備え付けられた照明に小さな火が(とも)されドアが閉められている。


 応接セットの(かたわ)らでイーラは(しわ)くちゃになった毛布を(たた)んでいた。彼女の真横に自分達は立ってしまい、イーラの肩がビクリと()ねて視線が向けられる。目が合うと緊張が(ほど)けたのか、青い瞳が笑んで口元が(かす)かに(ほころ)んだ。


 部屋の中は暖かい。

()()りの長衣を着た男が枕元で(かが)んでいて、親子に綿毛布を(かぶ)せるところだった。白いシーツが厚みのあるシーツに交換され、枕も違う。

イーラの側に置かれた寝具から、ベッドのリネンが全て取り替えられているのに気付いた。

イリイチと二人、顔を見合わせた。


 ふと、上半身を起こした男から、様々な薬の匂いが混ざった清潔な香りが立つ。それを()いだ瞬間、入院していた病室の天井が脳裏に浮かんだ。

 自分は唐突(とうとつ)に理解した。


 この生者(ヒ ト)は医者だ。


 独特の香りは、医師の(にお)いだ。

土の神が岳人(がくじん)と共に連れて来た世捨て人(ハ ー ミ ッ ト)。駆け落ちみたいな逸話(エピソード)とイーシャという名前から、女性だと思い込んでいた事に気付いた。


 忘れていた苦手意識が()き上がる。

行動力のある人物は(おおむ)ね世間に受け入れられるが、周囲の人間が平穏でいられるかは、また別の話だ。

 ソファーの()(もた)れから上着を取り上げると一歩離れた。


 そして。

一つ息を吐いてから振り返った男の姿に目が点になった。

イリイチが自分をサッと見た。


 長衣に見えたのは診察衣(ドクターコート)で、それが特徴的な黒い瞳によく似合っていた。

灰色がかった白髪は短く、(ヒゲ)がない。黄褐色(おうかっしょく)の肌は日に焼けて健康そうだ。年齢を重ねたアジア人特有の色合いに、彫りの浅い顔の造作。


ボケッとした自分が持った医師への第一印象は「何でココに日本人が」だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ