表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/106

75. 囁くような声を拾い。

さぁ、と血の()が引いたのが自分でもわかった。イリイチ……、これはちょっと。

衝撃(しょうげき)が過ぎる。


 早鐘(はやがね)を打つ心臓に負けて、唇に指を当てたまま深呼吸した。

脳裏に浮かんだのは<井戸>での出来事だった。(ふち)に座って小首を(かしげ)げた水の神の言葉が思い出される。


……<(かみ)()ろし>の儀式を邪魔したのであろ? よく(ほろ)ばされずにすんだの……


 自分は目を閉じた。

そもそも神霊に近いとはいえ高が元人間が、神を呼ばわる儀式を妨害して無事で居られる(ハズ)も無いのに。イリイチの高仕様(レ ベ ル)に目が行って完全に見落としていた。

自分のボケっぷりに眩暈(めまい)がしそうだ。


 やっとの思いで(まぶた)を少し上げる。目を伏せたような形になったが、自分的にはコレが精一杯だ。

声が(かす)れていないように祈った。


「……わかった。それで、イリイチはどうしたい?」


黙って自分を注視していた琥珀色の瞳の主は、あっさり言った。


(火の)()(水の)にナナシノが “双子の無事を確認するまで”って言ったからソレ以上は何も。情報が足りない今は指針以上の事は決められないし――」


イリイチは、立ち上がってヒョイと肩をすくめた。


()ずは、<禁書>の(のろ)い? で病気になった親子をどうにかしないと。ドクターが居ても、ナナシノの経験談(ハ ナ シ)がないと診断のしようもないだろ?」


 問うような(まな)()しに、(うなず)きで返事をした。

差し出された手を(つか)んで立ち上がる。脇腹がズキリと痛んだが気にしないことにした。

あ。そういえば。


「……イリイチは、自力で<(ココ)>から双子の所へ戻れるか?」


 琥珀色の瞳が、一瞬だけ泳いだ。

無理か。


「じゃ、自分のコート……は、マズイな。下手すると親子の()(どこ)の真上に出るし。あー、自分の上着は辿(たど)れるか?」


(さぐ)るような緊張の後、イリイチは苦しそうに言った。


「ジャケットとコートの位置が近すぎて、どっちがどっちか解らない」


 しまった。そうだった。

ベッド側のソファの()(もた)れに置いたんだっけ。


「部隊長や、イーラ。……親子はどうだ?」


 イリイチの目が、(すが)められて閉じられた。やがて「ダメだ」というように、ゆるゆると(かぶり)を振られた。

仕方がなかった。躊躇(ためら)ったが、ごく小さな(言葉)に出した。


「……エイレーネーでは?」


 目を閉じたままのイリイチは、(ささや)くような声を拾って、言われた様に探ったようだ。

(ひそ)められた眉がパッと開いた。


「居た。見つけた。行ける」


 すぐさま()ぼうとしたイリイチの腕を、掴んで引きとめた。

驚いた琥珀色の瞳を見上げて、自分は(ひそ)やかに言った。


「今のは、イーラの()()だ。あっちでは、くれぐれも()に出して呼ぶな」


イリイチはポカンとした後、説明しようと口を開きかけた自分を笑みで(とど)めた。


「それ、ハルからも言われた」


 え、と思ったが彼は笑んだまま手を(にぎ)った。

次の瞬間には、自分とイリイチはイーラの側に移動していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ