73. 死んでない。
……。
……バレた。
先ず思ったのは、それだった。
ちょっとヘコみそうになる。
一つ瞬いて、寝っ転がった姿勢から上半身を起こした。清水に浸かっていた所為か、熱が引いていた。
胡坐をかいて後ろ首を撫でる。水面を見て、蒼穹を見上げて、息を吐いた。
「あー、うん。……知ってた」
自分の事だし。
そもそも「死んでないから七代祟られねぇ」って思ったし、医師の宣告を聞いたワケじゃないし。
何より<河>を渡っていない。
第三者に「亡い」と言い自分でも「死んだ」として行動したのは、直感的に留まった以上妄執に囚われたくなかったからだ。
じっ、と自分を見る視線がイタい。
説明しろ、と言うことか。目を逸らしつつ、経緯を話す事にした。
「……一度、心肺停止になった。搬送先の医療スタッフは、全力を尽くしていたけれど時間の問題だなってくらいスプラッターだ。さっさとココに来たのは、前に死に掛けた時モタついてトラブって二度は御免だったから」
これも寿命だと思っている。と、告げた途端。
「まだ死んでない」
イリイチがピシャリと言った。
伏せていた顔を上げたら、目の前に美人の顔があった。
って、近。
近い。しかも据わった目が怖ーー待て。待て待て待て、あっさり持ち上げたその両手は
「いひゃい」
訛った。
両頬を容赦なく引っ張られ、縦横に捏ねられる力加減と、皮手袋の感触が気色悪い。
手首を掴んだがビクともしなかった。
「ナナシノお前オレに神殿で次に死ぬときはフツーに平和にひっそり逝くと決めてたって言ってたよなそんなら遣れよ実行しろよ何途方も無い寄り道してんだバカだろ無視すりゃ良かったのに異世界跨いだ壮大な厄介事に首を突っ込んで大体」
琥珀色の瞳の主はノンブレスで言い募り捏ねていた動きを止めた。
つか、肺活すげぇ。イリイチ結構喋るな。知らんかった。
でも頬っぺた限界。
あ痛。
「聞けば前も今もとんだ迸りじゃねーかアンタ何で怒らないんだホントわけわかんねーよ」
知るか。
ほっとけ。
内心で突っ込んでいる間も自分の両頬は真横に伸びたままだ。
そろそろ感覚が無くなってきた。