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58. ほとほと、と小さな音で。

しばらく腕の中でじっとしていようと思ったが、外の微かな気配に顔を上げた。

イリイチも、台所の扉を見る。

 聞き慣れた歩幅のリズムと、それより軽い足音が振動で伝わってきた。

先ほど案内してくれた人と、もう一人は……女性か?


 何事か話し込んでいた二神は、空気を嗅ぐように顔をあげた。<井戸>の側で見た表情に似ていた。


『……ハル。もうすぐ岳人(がくじん)世捨て人(ハ ー ミ ッ ト)が着く』


 火の神がハルトマンに告げるというより、自分達に説明するように言った。

イーラはさっと表情を引き締める。

受け入れ態勢をどう整えるか思案したふうだが、外を注視していた自分とイリイチは、心配していなかった。

一拍遅れてハルトマンもドアを見る。


 ほとほと、と小さな音でノックされた。

次いでガチャリと開錠されて、裏口のドアからランタンの光と夜気が入ってきた。明かりを持っていたのは、予想通りハルトマンの部下だった。


 彼は上司に気付くと、さっとサインを送る。そして身体を後ろにずらして、外套で着脹れた女性に入るように促した。


 イーラと同じか、少し若いくらいに見えた。

明るい茶色の瞳が、眩しそうに細められて台所を見渡し、火の入ったかまど、イーラとハルトマンを順に視認すると、女性はソワソワと寄って来た。


 彼女が自分とイリイチをすり抜けた時、その不安が伝わってきた。自分は天井を見上げ、琥珀色の瞳の主は肩をすくめた。

 ーー彼女は自分達幽霊が見えていない。


「……イリーナ様、完成したばかりの神殿で何があったのですか? すごい音がしました。それにハル様の部隊の方が突然みえて。……お指図との事でしたので、鍵を渡しましたが一体何が」


 女性は矢継ぎ早に質問をし出し、自分は胸中でチリッとした。

だが、彼女の視線はイーラとハルトマンに注がれている。幽霊の自分達ばかりか、二神すらも見えていないのを飲み込んだらしく、イーラは唇を開いた。


「……オリー、遅くに使いを出してごめんなさいね。実はその事で、今エアが来ているの。それにもうすぐ岳人と世捨て人が到着するわ。後から森人と幻も。だから急いで支度を。わたくしも手伝うから。……さあ外套を脱いで。ハルはエアに毛布を持って行って」


フカフカの外套を剥ぎ取りつつイーラは指示しながら、ハルトマンに目配せをする。

彼は一つ頷いて部下に複雑なサインを出し、受けた方は外へ駆け出していった。自分は上着を手にぎこちない動きで立ち上がり、イリイチは二神へ手を差し伸ばす。

 彼らが飛び乗るのを確認すると、ハルトマンは目顔で合図し台所から出た。

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