表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/106

54. 子供の頃から。

パチパチとかまどの火がぜる音が、絶句に近い沈黙を、かろうじてやわらげてくれた。

気の毒そうな声で、再びハルトマンはうめく。

その声音こわねに面白がる風情ふぜいが無いのは、自分の回復に時間がかかることを知っているからだ。


『……ナナシノお前、突然どうした!?』


落ちる直前、肩から台へと飛び下りて事無きを得た火の神はオロオロしながら言った。

水の神とイーラも突然の事に驚いている気配がするが、自分はボケッと思った。


 ……いつものことです。


内心で返事しても痙攣けいれんする身体は動かない。イリイチのため息が聞こえた。


「ナナシノ。ちょっと触るぞ」


 悪ぃ。頼むわ。


 イリイチの両腕が自分の両脇にぐっと入れられ、そのままグイと引き上げられた。ビキリとり、身体が更に硬直する。息をめて激痛に耐えるが、音がしないのが不思議だった。

四肢(し し)が完全に動かない。ズルズルと引きられイスに座らされたが、治まらない痙攣にたまらず台に突っ伏した。勢いがついてゴンとひたいを打った。何気に痛い。

 ビクつく咽を刺激しないように、そっと息を吐いた。

情けない姿をさらすのが二度目ともなると、落ち込むより先にリスクが気になる。

どんな作戦になるかわからないが、こんなんで大丈夫か?


「……部隊ちょ――」


「――ナナシノ殿」


 さえぎるように、ハルトマンが呼んだ。なんとか首をねじって見る。視界のほとんどは自分の腕だったが、わずかな隙間すきまでハルトマンをとらえた。


「……いくつかきたい。ナナシノ殿のソレ(・ ・)は生前からか?」


 うん。まぁ、そう。コレのせいでフられた事もあったしな。

妙な姿勢のまま、くぐもった声で返事をした。


「……子供の頃から」


ぎゅっと握り締めた自分の手から台拭きを取ろうとしていたイリイチはピタリと止まりかけ、そのまま作業を続けた。


「さっき、ナナシノ殿は湯でカップを洗っていた。……熱くはないのか?」


 あ。

見てたんだ。


「……五感を切り替えれば、感じないから」


 ハルトマンの眉がひそめられる。

わかりやすい表情に、自分の方が戸惑った。


 え。変なコト言ってないぞ。まだ。


イリイチのため息が聞こえた。


「……五感というのは、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚を指す感覚機能のことです」


 補足説明ありがとうイリイチ。

水の神の困惑した声が聞こえた。


『それは……おかしくはないかの?』


 腕で見えないが、全員の注意が水の神に向けられたのがわかった。

自分も謹聴する。


『五感を切り替えられるなら、何故ナナシノはそう(・ ・)なる?』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ