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51. 絶妙なタイミングで。

 口をつけずにカップを置こうかとも思った。


 が、


空気読むのやめたKYでいく今いるメンバーと後から合流する参加者でどう対応するか話し合って決めて欲しい親子が安全でイリイチが無事なら万事従(ばんじしたが)うから。


 アタマの中でざらっと考えて、唐突に決めた。

 一度(たが)が外れると、自分を取り戻すまで落ち着かない。

成り行きとは言え<河>の事を喋ったのを後悔し始めているし、声を荒げこそしなかったものの、たかが幽霊風情が神を相手に何やらかしてんだ。

 視線を向けられ(うなが)されても、話したくなかった。


 目を伏せて白湯を口に含んだ。

それとなく見ていたハルトマンが、その薄い唇を開いた。


「つまり伯母上。イリイチ殿が親子を<禍神(かがみ)>から守り、ナナシノ殿が術者をあの世まで連れて行ったのが事実なら、……彼等を戦力に組み込めば良いのです」


 ごふっ、と(むせ)た。

飲み込みの絶妙なタイミングで爆弾を放ったハルトマンは(てん)として言を継ぐ。


「そして、<神降(かみお)ろし>を(くわだ)てた連中は我々で対応すれば解る事も出て来るでしょう」


 イリイチが黙って背中を(さす)ってくれた。

自分はカップを置き、口元を(ぬぐ)って(おさ)えてビクつく喉が鎮まるのを待った。


 ……協力は惜しまないが、幽霊を「戦力」にするって、正気か?

 

 伏せた目を上げたら、台所の空気は変わっていた。

先程までのビミョー感や、その前の緊張感、沈み込むような硬い雰囲気が払拭(ふっしょく)されている。

いつの間にか二神は頭を寄せて検討に入っているし、イーラも思案気な表情だ。

振り(あお)いでイリイチを見た。

背中を摩りながらもイーラと同じ顔をしていた。


 ……。

……イリイチ。お前もか。


 ハルトマンを見たが、青い瞳はオレンジ色の光を反射するばかりで何を考えているか解らない。じっ、とこちらを見たまま何も言わない。

自分はため息がでそうになった。


 対策を練るのに、情報の収集と人員能力の把握は基本となる。

神に啖呵(たんか)を切った自分は、喋りたくなかろうがどう在ろうが責務を果たさないといけない。ハルトマンから視線を外して、床を見て天井を見上げて、ため息を吐いた。


 何なんだ。フツーが一番なのに。

個性的な地が()き出しになりそうでビミョーだ。


 ぽつんと口にした。


「……ハッキリ言って自分が戦力になるかわからない」


 ホント言うと、もう(だま)っときたい。

ごちゃごちゃ考えたり思ったりアタマの中でならともかく、要らん喋りは好きじゃない。

けれど、まだ伝え終わっていない。


「生前は、こちらでいう書庫の官吏(かんり)だった。荒事(あらごと)の経験も無いし戦闘訓練を受けた事も無い。だが、ご存知のとおり(スキ)()けば一本を取れるくらいはできる」


イリイチが自分を見た。情報開示を意外に思ったようで、目を丸くしている。

自分はちょっと笑って肩をすくめた。


「……逆に言えば相手が油断していないと、自分は何も出来ない」


「知らなかった。オレは一通りの訓練を受けたが……ナナシノは違うのか」


 (ちげ)ーよ。

そんな経験ねーよ。


イリイチに思い切って尋ねてみた。


「ただの事務屋(じ む や)だって言ったろ? ……お前、自分を何だと思っていたんだ?」


「オレと違って生身の人間に(さわ)れないクセに服や物には触れる半笑いの日本人」


思わず()みが(こぼ)れた。


 そうか。うん。わかった。


「……イリイチ。お前には後で話がある」


 ニッコリ笑って言ったら、琥珀色の瞳の主はイヤがる幼児のように眉を八の字にした。

 ちっとはオブラートに(くる)め小僧。

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