表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/106

50. 冷めた目で葛藤する。

ガン、と音荒く踏み込み太刀に手をかけた火の神は、抜刀(ばっとう)しなかった。

構えたまま、何かを逡巡するように自分を見据えている。普段だったら気圧(け お)されそうになる自分が冷めた目で葛藤(かっとう)する火の神を見た。


 玄関では水の神相手にあっさりガチンコ勝負していたのに。


 目を逸らさずに思った。

息を吐いて、表情を消す。



 ふ、

と。

自分の中の風景の星が、(またた)いたように思った。

 遠い蒼穹へ光がのぼっていった光景が心に浮かんだ。

<河>に関する事は、できれば誰にも話したくなかったのに、言葉が勝手に(こぼ)れ出た。


「九人です」


『何だと?』


 火の神が眉をひそめた。

荒ぶる気配はそのままだが、それよりも唐突な言葉に戸惑ったようだ。

 ハルトマンとイリイチは、さっと自分を見た。あの場を知る二人は、数の意味が解ったようだ。


「神殿の地下室で<禍神(かがみ)>の傷を負って死んだ人間は九人です。亡霊になって襲ってきたので、そのまま――」


 自分は、<河>、と口にしたくなかった。

言葉を濁して話を続ける。


「ーーあの世の入り口まで連れて行きました。そうしたら、あっさり逝きました。見送ったので確かです。多分、<禍神>も連れて行けると思います」


 ぽかん、とした空気が台所に漂った。


 パチパチと(かまど)の火が()ぜた。

火を見ないと危ない。イリイチの手をポンポンと叩いて解放してもらった。掴まれた腕は(しび)れていた。

 自分は焚口(たきぐち)まで引き返して、火バサミで微調整してから、薪を足し、大鍋を見る。


 白い湯気(ゆ げ)が温かそうだ。


 手を洗って、準備されていたカップに熱々(アツアツ)白湯(さ ゆ)をいれて、全員の前に置いた。

ぼうっ、としたまま水の神が自身より大きいカップに口をつけ、火の神は黙ったままカップの(フチ)に手をかけ顔を突っ込むように白湯を飲んだ。

イーラがカップを両手で包み込むように持ったところでハルトマンとイリイチもカップを手に取り、三人はほぼ同時に白湯を(すす)った。


 しばらくしてビミョーな空気を破ったのは、イーラがぼんやりとカップを台に置く音だった。彼女は呆然としたふうに、その唇を開いた。


「つまり、……どういうことになるの?」


 それを自分も知りたい。


 そう思って冷めたカップに口をつけようとしたら、全員が自分を見ていた。

集まった視線で、自分の動きが止まった。


 ……。

……人が飲み食いする時に全員注目とか、ほんとヤメテ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ