表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/106

5. イリイチの頼み。

 小さな子供が二人。

年齢は四歳から五歳くらいに見える。黒茶の髪と顔の造作が同じことから、双子だと思った。

肌色はイリイチと同じだが、随分と様子が違う。

 壁に背を預け、手足を投げ出し、寄り添うというよりは互いに寄り掛かっている。眠っているのではなく、気を失っているようだ。

お揃いの貫頭衣を身につけ、複雑な織りの帯を横締めに結んでいる。

 一人は靴で、もう一人は裸足。

裸足の子の手足に鉄枷がはめられているのを視認した瞬間、ゾワリと憤怒が湧き上がった。

イリイチはさっとこちらを見たが、今の自分がどんな貌をしているかなんて構っていられなかった。


 枷を外せないか。


 反射で思った。

子供の傍らに立つとイリイチは腕を放してくれた。頓着なく座り込み枷の造りを検分する。

 今の自分は、身一つといっても裸ではない。

昼休みにコンビニに出かけた、そのままの姿だ。スーツにダッフルコート。眼鏡。

上着の内ポケットの手帳からクリップを取り出して一部針金にし、鍵穴を探ってみた。が、ダメだった。


 クソ。南京錠はコレで開けられるんだけどな。


 ポルターガイスト現象は概ね無敵だが、できないこともある。

子供に触れようとして、躊躇った。経験則で知っているからだ。

覚悟して手を伸べたが、案の定、指は子供を素通りした。


 どうする。


 子供達に死体を見せたくないから、できれば目を覚ます前に連れ出したい。だが、枷も気になる。

逡巡しているとイリイチが肩を引いた。何だ。この非常時に。

「枷を外せないかだろうか?」


 は? 今の見ていなかったのか?


自分の表情を読み取って、イリイチは慎重に続ける。

「枷の鍵は死んだ連中の誰かが持っている。オレは物に触れないが、子供になら触れる」


 よしきた。


 イリイチへ、手に持っていた針金クリップを指で弾いた。次いで立ち上がる。

驚いた彼が慌てたのは一瞬で、さっと広げた掌にクリップはポトリと落ちた。

目を見張ったイリイチに口角を上げると、自分は死体の方へ向かった。


 クリップという<質>があるから、今度はイリイチもついて来ない。

彼が自分の腕を放さなかったのは、逃げられたときに追いすがる手段が無かったからだ。自分が逃げても、イリイチの呼び出しを無視してしまえば、それで終わる。

だが、質があれば例え自分が<河>に引き返していても、呼び戻すことができる。

 

 イリイチの視線を背に感じながら、死体の傍で立ち止まった。

松明の揺らめきの中、自分の影が落ちない現実と凝った闇の濃さに、夢のようだと思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ