48. 心が折られる前に。
イリイチはビクリとした。
撃たれたように琥珀色の瞳が動揺している。
自分は見ていられなかった。
上着を台に置き、そっとイリイチをイスに座らせた。
「……何故、呪われていると?」
イリイチの傍らに立って、静かに火の神に尋ねた。
庭からこの家に入るまで、二神は親子を見てはいるが直に接してはいない。何か根拠があるはずだ。
火の神は嘆息した。
『俺達は神殿の中で何があったのか一切わからない。だが、仮にも“精霊”と呼ばれる俺らは、お前達人間よりも、魔法に近い』
忌々しそうに吐き出された言葉は、事実なのだろう。とても強かった。
そして悲しそうだった。
『解ンだよ。見ただけでも。匂いだけでも。母親は獣に裂かれたような傷を負っただろう? イーラが治したみたいだが、傷ってのは、印と同じだ。……どうやったって残ンだ。ソレが<神降ろし>の副産物ならなおさらだ』
火の神の手が、ぎゅっと柄頭を握った。
ミシリと軋む音がした。
『生贄の子供だけでなく、傷を負った者も<禍神>は欲しがる。そして手に入れる。手に入れたらその分、力が増す。増した分だけ新しい生贄を欲しがる。果てが無い。……俺らがアレを厄介に思い、呪いと呼ぶのは、その所為だ』
神殿で<部位>が母親に指を伸ばしていたのを思い出した。
それでか、と納得した。
『俺達で儀式の続きを執り行う。生贄は死ぬが、永遠に<禍神>を封印できる。今なら――、あの親子の犠牲だけで済む』
イリイチの覇気が感じられなくなった。
神殿の外で自分をおぶった時の状態に近い。言葉の指す内容に痛めつけられたようだ。
それで自分の腹が決まった。
琥珀色の瞳の主の、心が折られる前に彼の肩をトンと指で叩いた。
ハッと自分を見上げたイリイチが、どんな表情をしているか、火の神から目を逸らせないからわからない。
自分は、半笑いを浮かべた。
「そうですか。ところで、呪いを解く術とかありませんか?」