表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/106

47. 諦めてくれるか。

その背中が心なしか硬い。

 思わず眉をひそめたが、そのまま黙って焚口(たきぐち)に座り、火種を移した。

道具を元の場所に置き、うっすらと表面を覆っていた灰を(ふいご)で飛ばして炭火を(おこ)す。ポッ、と小枝に火が(とも)り、煙と炎を出しながら(ゆる)やかに燃え上がった。

細く上がっていた煙は外付けの煙突に吸い込まれ、薪の燃える音が台所に満ちた。


 立ち上がって台の上で缶を(のぞ)き込んでいる二神を見た。やはり気配が硬い。

缶の中身は茶葉のようで水の神はチラと目を上げて(うなず)いたが、すぐに顔を伏せて香りを確認している。

火の神が肩をすくめて、チョイチョイと自分を手招きした。

 イーラと水の神から少し離れた位置に移動して、火の神は唇を開いた。


『……あの親子は厄介な事になっている。お前と、もう一人の……イリイチと言ったな。ソイツに話がある』


 不安になった。

何かあったのか? 特に徴候(ちょうこう)は無かったと思うが、見落としたか。

道すがらの様子を初めから思い出して、――結局思い当たらず困惑する。


 イリイチがハルトマンに連れられて来た。

(あらかじ)め何か聞いているのか、緊張していた。いよいよ疑問に思った。


 ハルトマンは台所の入り口に立ち、イリイチは自分に近い火の神の前に立つ。

ひょい、と片手を上げた火の神はあっさりとイリイチに声をかけた。


『初めまして、ピョートル・イリイチ。ナナシノから呼び名は聞いた。俺は火のと呼ばれている。あっちは水のだ。よろしくな』


 簡単に挨拶した後、火の神は太刀の柄頭(つかがしら)に手を置き、しばらく下を向いた。

顔を上げて、イリイチを見た。


『実際に会うまで半信半疑だった。……お前、たった独りで<禍神(かがみ)>を(おさ)えたンだな』


よくあの親子を守った、たいしたモンだよ、と口の中で(つぶや)いた言葉は無意識だろう。その目は何も映していない。

 火の神はカシカシと耳の後ろを掻いた。

そしてポツリと言った。


『あの親子は、(すで)(のろ)われている。(あきら)めろ』


神の在所で視線だけで自分を縫い止めた、火の神の力強さは無かった。


 自分の眉が上がった。

(ハラ)()える。

自分は焚書(ふんしょ)を断った時と同じように構えた。


『……<禍神>に呪われて生き延びた人間は居ない。死ぬのは時間の問題だ。双子の無事を確認するまでと聞いていたが、……無理だ。諦めてくれるか』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ