43. 美人がキレると凄みが出る。
呆然としてしまい、更に心配そうに自分を見る琥珀色の瞳とかち合って、ギクリとした。
火の神の口止め付きでは、説明が上手くできない。
相談しようと視線を彷徨わせたら、掌の騒動はエスカレートしていた。
……。
……どうしてガチンコ勝負になってんですか。
得物を手にした攻防は、収まりがつきそうにない。
むしろ激しくなっていく。
……仕方ない。
イリイチに話そうとしたら、察知した二神が鍔迫り合いをしながら視線を投げて寄越した。
火の神からは止められ、水の神からは促される。
互角に渡り合っているさまは見事だったが、板挟みのストレスがハンパない。
その結果、自分の挙動不審に拍車をかけただけだった。
イリイチの目が厳しくなった。
美人がキレると凄みが出る。
「ナナシノ。……お前、イドで何かあったな?」
飛び上がりそうになるくらい驚いた。
的のド真ン中を当てられたどころか、射抜かれた勢いで的そのものを吹っ飛ばされた心境だ。
おまけに自分は図星を指されると弱い。
狼狽えて、すぐに表情に出る。だから、動揺のあまり顔が引き攣ったのが自分でも解った。
必死でパニックを抑え、ようやく一言喋る。
「……後で話す」
うあああああ。
内心で絶叫した。
自分は頭を抱えたくなった。
何て言い草だ。
他に言い方があるだろう。
それに、イリイチはコレで納得するようなオヒトヨシじゃない。
案の定キリリと眦を吊り上げられた。
ビリビリと気圧される。
何か言いかけたイリイチを、扉が開く音が遮った。
夜の玄関先を四角い光が切り抜く。
ピタリと掌の騒動が止まった。
頑丈なドアを開けてくれたのはイーラだった。
すこし奥でハルトマンも待っていた。暖かな家の明かりが、太陽よりも眩しかった。
「二人とも、どうしたの? ここはわたくしの家だから、さあ、入って」
イーラが促してイリイチを招き入れる。
続いて自分も入ると、重いドアが開かれたときと違って静かに閉じられた。
振り返ったイーラは自分を見て首を傾げた。
「ナナシノ? どうしたの? 真っ青よ?」
一斉に視線が集まった。
……。
……いっぱいいっぱいの時に全員注目とかマジでヤメテ。