41. これからの災厄。
ぼんやりと眺めて、ふと、イリイチを思い出した。
……しまった。
何も言わずにここに来ている。
我に返った自分を、さっと水の神が見た。
丁度、話が済んだのだろう。暇乞いをしようとした自分を、目顔で止めた。
小さな手をぎゅっと握った水の神は唇を開いた。
『ナナシノ。風のから聞いたが、人がそなたらからも「事情をきく」とは真か?』
ハルトマンが神殿の外で告げた事を指している。短い時間で遣り取りの出来る神の力は底が知れない。
ありのままを話した。
『はい。神殿に踏み込んだ部隊の指揮官が知りたいと』
水の神は俯いて何事かを思案している。
火の神は腕を組んだまま、そんな水の神を横目で見て口を開いた。
『……水の、俺は事の顛末を知りたい。ナナシノについて行く。人の世界に関わらねぇ、つっても限度があるからな。お前らはどうする?』
チラとこちらを見上げた火の神の目は沈んだままだが、敢えて触れずに自分は黙礼した。
そして火の神の促しを受けた水の神は、顔を上げた。
『我も行く。<神降ろし>が執り行われ、失敗した。元々行く気でおったが、この凶事に悠長に構えておられぬ』
それを聞いた風の神は、目を伏せてひっそりと笑った。
『じゃあ、僕も。一緒に森人と幻を連れて来るよ。下位の精霊が丁度それぞれに呼び出されていてね。多分、事情を探っているんだろうけど、中途半端に知られるよりは最初から全部把握して貰っていた方が良いからね。この際だから何が何でも連れて来るよ』
では、と土の神はその峻厳な顔を上げた。
『オレは岳人と世捨て人を連れて来よう。崩れてしまったが、<神降ろし>に使われてしまった神殿にかかわっていた彼等がまだ周辺にいるはずだ。これからの災厄に彼らも無関係ではいられなくなるから、人と誼を結ぶ良い機会だ。それが無理でも、事情くらいは知っていた方が良いからな』
……災厄。
土の神の一言で、思わず目を伏せた。
知らずに拳を握りしめていて、そっと力を抜いた。
……双子は一体、何に巻き込まれた?
稚い笑顔を思い出し、自分は胸が痞えた。
ため息も出なかった。