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40. いたましいもの。

 自分は反射で目を上げた。


 神殿の外での会話を聞いたと告げた風の神の、(うれ)いを()びた顔は、いたましいものを見る表情だった。


『……ナナシノは官吏(かん り)だ。<本>を管理する立場にはあったが、所有者ではない。知らなかったとはいえ不正を(あば)いて殺された人間に「生き返らせてやるから<本>を着服し処分しろ」と』


 土の神は、一瞥(いちべつ)しただけで何も言わない。しかし、何かを(さっ)しているようで、自分達から離れた所で話し込んでいる水の神と火の神を(なが)めている。

 風の神は自分から目を()らして、言を継いだ。


(むご)い事を言った』


 すまなかったねと続いた言葉に、知らずに(かま)えていた心が少し(ほぐ)れた。


 正直、どう判断されるかわからなかった。


 だから自分の中では断ったあの時点で、話は終わっていた。過ぎた事に(こだわ)れるほど、強くもない。

 自分はゆるゆると(かぶり)を振り、意識して口角を上げた。()まいに見えなくも無い表情になっていることを祈った。

 そんな自分を風の神は見上げ、黙ったまま(うつむ)いた。

微妙(びみょう)雰囲気(ふん い き )の中、土の神はそっと片手を上げると掌を水の神に向けた。


 空気が(ゆる)んだ。

それでわかった。今まで結界が張られていたことに。

 話しこんでいた二神は、風の神と土の神に気付いて大いに驚いたようだ。

すぐさまパタパタと寄ってきた。


『風の、土の。火のから聞いた。よく来てくれた』


『……かまわないよ、水の。それに土のを引っ張って来るのに思ったより時間がかかった』


 先程までの気配を悟らせずに、風の神は返事をした。

空気が変わって救われた気がした。土の神は一瞬だけ自分に視線を向け、(かす)かに(うなず)いた。

 

 四神が車座になる。

邪魔にならないよう自分は息を(ひそ)めた。それで良かった。

 次の瞬間、物凄(ものすさ)まじい勢いに(さら)された。

聞いたこともない言語の嵐。(たま)に火の神の身振り手振りが大きくなる様子は、飛び交う情報のスピードと相まって目まぐるしい。


 混乱しそうになった自分は注意深く呼吸して、招かれた「場」を改めてみた。広やかな空間は<河>を思わせたが、神の在所という事をのぞいても四神が集うケタ違いの清浄さはもはや尋常ではない。


 神気に(あた)り、天を仰いだ。

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