4. 美人はイリイチといった。
残酷な描写があります。苦手な方は、スルーをお願い致します。
昔なんかでかで見たモノクロ写真の宇宙人って、こんな気分だったのかな。
ちょっと辟易した。
妄想もここまでくると突飛すぎて自分で自分にグッタリだ。
うっそりした自分に気付いた幽霊は申し訳なさそうに口を開いた。
「このままで、すまない。オレは、ピョートル・イリイチという」
作曲家と同じ名か。イリイチと呼ばせてもらおう。
自分も自己紹介しようとして、ふと口をつぐんだ。
イリイチの背後に、人が倒れているのが目に入ったからだ。首がありえない方向に曲がっている。
壮絶な違和感に、眉をひそめた。
そっ、と押し退け踏み出す。腕を掴んだままのイリイチは、黙ってついて来てくれた。
その場所の異常さに、眉間に皺が寄る。
凄まじい惨状だった。
倒れている全員が、焦げているうえに滅多裂きにされている。生きてはいない。
ひのふの……ざっと五人以上、十人未満。パッと見だが、男ばかりか。
ため息が出そうだ。
どうやったらこんな事態になるんだ。
焦げを除いた傷痕は、獣の爪か牙で裂かれた状態に近い。それも非常に巨大なーー博物館でしか見たことはないが、恐竜サイズのーー生物が屠ったような。
隣のイリイチをチラリと見たが、彼は首を振った。
ホントため息が出そうだ。
窓の無い石造りの部屋という閉鎖された空間は、松明の光熱と煙りと、血臭で澱んでいる。
ここは……、地下室か?
こんな大規模な地下室は修学旅行以来だが、石の組み方が違うから日本ではないのは確実だ。
室内を見渡し、上への階段を見つけた。
ここにいる理由も無い。向かおうとした自分を、イリイチは腕を引いて留めた。
振り返ったら、焦った琥珀色の瞳とかち合った。
「……すまない。あの子達を助けてくれ」
あの子達? 子供がいるのか? この地下室に?
驚いて目を見開く自分に勇気付けられたのか、イリイチは勢い込んだ。
「あっちに」
ぐっ、と腕を引いて歩き出す。
独特のリズムには、覚えがあった。
自分を<河>で引き止め、ここまで引っ張った主は、お前かイリイチ。
薄暗い地下室を、濁流に揉まれたときのように引き回される。
いくらもしないうちに「あの子達」を見つけた。