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35/106

35. 霊は見ずに、仏は放っておき、神には関わらない。

 涸れてもいない井戸を朽ちさせるとは、想像の埒外(らちがい)だ。

それでも井戸の「場」は生きていて、その事がわかって更に複雑になった。


 心霊スポットとは全く違う別次元の地域がある。

それは聖域とも、神域とも伝えられる、禁足地。

不可侵の「場」だ。

 人も幽霊も関係ない。

スルーするのがマナーというのは、方便だ。

「霊は見ずに、仏は放っておき、神には関わらない」でいるのが最適なのだ。

けれど、視線を向けられ、自分は受けた。

無視することは今更できない。


 禁足地よりこちら側に立つ。

気息(き そく)を整えた自分は、視線の前で静かに平伏した。

正確には、その井戸の水神に。


『お初にお目にかかります。私はナナシノ、もう一人はピョートル・イリイチと今は名乗っております。こちらではあの双子に関わっていますが子供らの無事が確認できましたら、元の場所へ戻ります。それまで御寛恕(ごかんじょ)下さいますようお願い申し上げます』


 強い水の芳香がした。

伏した身体が強張った。

 場所が変わっていた。

自分は昼を思わせる夜の中に居た。

朽ちた井戸はどこにも無く、白い井戸があった。


 ……招かれるとは思わなかった。


 白亜の井戸の縁に座った、鳥よりも小さな神は興味深そうな顔をし、膝の上に肘を乗せ、掌に顎を乗せたまま、真っ直ぐに自分を見ていた。

庭に居た時から感じていた視線の主だ。

小さいながらも美々しい神は唇を開いた。


『……異界から来たというに、ここの魔法に関わっておるの。我は精霊と呼ばれておる。お前ら、面白いの。元は人間であっても別の世界で死んだのであろ? 何故わざわざ来た?』


 人類とは全く異なる存在に、自分の魂が(さら)される。

(すく)み上がる精神を振り絞って心を開いた。


『<禍神(か がみ)>が、双子に関わっているからです』


 精霊と名乗った神が驚いた顔をした。

井戸の縁からひょいと飛び下りて、トテトテと近寄って来て自分を見上げる。


『なんとまぁ、<禍神>とは。ずいぶんと(なつ)かしいが、そなたら<神降(かみ お)ろし>の儀式を邪魔したのであろ? よく滅ぼされずにすんだの。いや、それを別にしても、これは……』


 軽妙なノリに瞠目(どうもく)した。

視界の端で、神はチョイチョイと手招きした。


『あー……、ナナシノとやら。楽に、楽に。訊きたい事がある』

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