34. 田舎を思い出す。
ハルトマンとイリイチが崩れ落ちなかったのは、双子の前だったからか。
大人の意地か。
微笑みを浮かべたイーラから優しくされているハルトマンと、子供の手に引かれて放心状態で歩いているイリイチは、やはり気が合ってると思う。
そんなにショックか。
双子のお喋りを一手に引き受けた自分は明日の風呂プランを聞いていた。
特に問題は無いと思うが、段々と“おもしろいあそび”の難易度が上がってきている。
……止めなくていいのか? コレ?
ちょっと疑問に思ってイーラを見たら、にこやかな笑みで頷かれた。
止めるな、ってことか。
無音のときに射竦められてから何となくイーラに頭が上がらないが、別に仕方なくはない。気のせいにする。
ふと、先導していた人の歩みが止まった。
神殿から離れたところにある集落だった。
足を止めたハルトマン越しに見る一軒家に、懐かしい気分になる。
少し大きめの平屋だった。
作小屋と釜屋のある広い庭。片隅に見える建物は家畜小屋と納屋か。
田舎を思い出す雰囲気だ。先に散った部隊の男達が火を焚き周辺を照らしているのが、余計にそう連想させた。
平屋と釜屋の煙突の煙の匂いに口元が綻んだ。
どこも事情はあまり変わらないんだなと感慨に耽って庭の一角を見て、硬直した。
……ここじゃ井戸を朽ちらせて、うっちゃっとくのがフツーなのか?
思わず眉をひそめて立ち止まっていると、双子が互いに手を解き、目を擦った。
イリイチは心得たふうで、さっと二人を抱き上げた。子供たちは頭を預けると、すとんと眠りに落ちた。双子の様子にちょっと笑ってから、イリイチは自分の目線を追い、そして同じように眉をひそめた。
「なんだアレ?」
え?
「井戸だ」
「イド?」
……そこからか。
思わず瞑目した。イリイチは町っ子か。どこまで説明しよう。
後ろ首に手が伸びそうになって止めた。
視線に気付いたからだ。
井戸は夜の中で、黒々と存在している。
イーラとハルトマンが、明かりの入っている家の前で待っていた。
イリイチは一瞬だけ首を傾げたが、家の方に向かった。
自分は一呼吸すると、井戸の方へ向かった。