30. 手を繋ぐ。
驚いた顔のまま何か言おうとしたハルトマンは、駆け込んできた部下に気付いて唇を引き結んだ。部下は手に持っていた子供用の靴を、抱かれたままの裸足の子に履かせている。
器用に身につけさせた後はハルトマンの耳元に何か報告をしていた。
イリイチと自分が、見えてなさそうだ。
良かった。ちょっと安心した。外国向けの作法なんて知らないんだよ。
アレを他の人にも見られていたら恥ずかし過ぎて死ねる自信がある。もう幽霊だけど。
ハルトマンへの報告は耳打ちに近く、双子にはくすぐったかったのだろう。
くすくすと笑う様子に不安感はない。
ハルトマンは頷き、一言二言、唇を動かすと部下は立ち去る。そして双子に何か言うと、子供達はパッと笑顔になった。
腕を解かれて双子は滑り降りる。ダッフルコートはハルトマンが自分の腕にかけた。次にやって来た別の部下が何か報告を始める。
そして双子は、何故か真っ直ぐにイリイチと自分を目掛けて走ってきた。
イリイチはともかくなんで自分もだ!?
自分のパニックを察したイリイチは、満面の笑みを浮かべて飛び掛ってきた双子を、ガッシリとキャッチした。もの凄く楽しそうに、そのまま両脇に抱えて、ぶうんと二回転する。
うあ。ちびっ子すげぇテンション上がっている。
きゃあきゃあ笑ってご機嫌になった子供の手を繋いでイリイチは琥珀色の瞳を真っ直ぐ自分に向けた。
「ナナシノ、その子と手を繋げ」
顔は笑んでいたが、目が笑っていなかった。
イーラと同じ迫力だ。否も応もなかった。
あの、自分が物に触れて人に触れないって解っているか?
あと泣かないか?
パニックから立ち直ってオロオロした自分を、イリイチはニッと笑った。
清々しいくらいの力強さがあった。
「イーラの手を取れたのは手袋しているからだろ? 四の五の考えずにとっとと手を繋げナナシノ」
うん。わかった。とりあえずアレに関しては黙れ小僧。
ニコニコしている子供の手に、恐る恐る指を伸ばした。
そっと触れた途端に嬉しそうに握られて、自分は心を打ち抜かれた。
あああああ。めっちゃカワイイ。