3. 美人に捕獲される。
おお。何かカラフルだ。
岩壁から引きずり出されて最初に思ったのは、自分を掴んだ幽霊の感想だった。
灰色がかった金の短髪に琥珀色の瞳、雪のような白い肌の外見でも、ボケっとした性格の自分では「珍しいな」と思うだけで特に感慨はない。髪と眉が同じ色だったから、一瞬眉毛が無いように見えてビビったけどな。
最初の感想以外を挙げるなら「男だけど美人だ」くらいだ。
自分より、頭一つ分背が高い。
若いから威圧感が少ないが、良いガタイにどっかの制服が似合っている。上半身と腰回りの装備がゴツイな……警官か?
それにしても、現代的な制服の装備と中世を思わせる石造りの部屋のちぐはぐ感がハンパない。
照明が松明って何時代だよ。うお。煙りがすげえ。
因みに相手が幽霊だって分かったのは、自分に触れるなんて事ができているから。
……はぁ。図太くなったなぁ、自分も。
つか、腕。
手を振り払ったら反対の前腕を掴まれたんだが、ギリギリ締めんな。握力強ぇ。
生きていようが死んでいようが、他人も自分も大切にしろよ。
自分の拒否感が伝わったのか、幽霊は、はっとした。
琥珀色の目を伏せて口を開いた。
「……逃げないでいてくれるか?」
低いが良く通る幽霊の声。力強い声質だから、囁くような声量でも意味は解った。
自分の眉が上がったのがわかった。驚いたときの自分の癖だ。
すごいな。アンタ喋れるんだ。
そう思ったのは、大体の幽霊は意思か感情を直接ぶつけてくるからだ。話すより簡単で、ジェスチャーや思念ーー日本人で言う「空気を読む」とか「察しろ」ーー等で概ね意思の疎通が可能だから、わざわざキツイ練習までして喋ろうとは思いもしない。
けれどメリットは大きい。
喋れると言語にかかわらず相手に伝わり「言葉の壁」というのが希薄になる。直接ぶつける感情や思念と違い、聞き手側の負担も少ない上に、複雑な情報を伝えても誤解されにくく、しかも話し手の心も暴かれない。
面白いヤツ。
腕を捕まれたままの不快感より、好奇心が勝った。琥珀色の目を見て、顎を引くように頷く。
ホッとしたように、力が抜かれた。
……。
……腕は放さないんだ。