表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/106

28. 亡霊っぽくない。

 さあ、と夜風が吹き込んだ。

焦げた臭いが散る。

澄んだ空気は良いが、ここは山に近く肌寒い。吐く息が白くないだけだ。

だいぶ動くようになった手でループを外し、ダッフルコートを脱ぐ。驚いたイリイチにコートを渡した。


「どの程度の防寒になるかわからないが、無いよりマシだ」


 笑みで双子を指すと、伝わった。

パッと笑ったイリイチは、要領よくハルトマンごと双子にコートを被せる。子供達はくすぐったそうに笑った。

 幽霊二人でホッとする。

こういうのは心底タイミングが重要だからな。


 ふと見ると老女とハルトマンが呆気に取られていた。

老女はイリイチと自分と交互に見て、呟いた。


「……亡霊っぽくないわ」


 ……。

……亡霊って。

その言い方だと悪霊っぽくないか? それとも、ここではその言葉の方がスタンダードなのか?


 ビミョーな気分になってイリイチを見たが、真顔で肩をすくめられただけだった。

ハルトマンを見たら、目を逸らされた。

 ……待て。

何故こっそり笑う。そういえばお前には脇腹ツンも含めて後で話がある。


 チリ、と視線を感じて目を向ければ老女と目が合った。

下顎に手を添えて首を(かし)げる姿は、(しと)やかだ。


 ぐっと詰まり、ため息が出そうになった。

そうだ。まだこの人に挨拶していない。どうしよう。さっきハルトマンが怒らせたばっかだから気まずい。


 立ち上がろうとして、気付いたイリイチが手を貸してくれた。思っていたより力が戻っていてホッとする。

口角を上げて謝意を示した。


 緊張するが、怒らせたのは自分達じゃないからな。開き直ろう。


 真っ直ぐ立って、前開(まえびら)いていた上着のボタンを閉める。

ズレた眼鏡を親指と薬指で押し上げて、ポケットからフォーマルグローブを出してはめる。とりあえず体裁は整った。

 イリイチと二人でハルトマンを見る。


 ハルトマン。お前、紹介するか場を仕切れよ。


 視線に意思を乗せたが気付かない。

いや、仄かに笑っているから、気付いていないフリか?

 今度こそため息を吐きそうになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ