表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/106

26. 騒々しい光景の中で。

 閃光と衝撃と轟音の後。


 は


と、息を吐けたのは小さな雷が消えたからだ。

ほとんど剣に(すが)りつくような姿勢でキツかった。なんとか指を柄から外して離れようとしても硬直が解けず、ちっとも動かない

 自分が今どんな有様になっているのかなんて想像もできなかった。

咄嗟(とっさ)に踏み込んで、ああ。そうだ。イリイチは直撃と間接と、二度もコレを食らったのか。


 よくキレなかったな。すげぇよイリイチ。


 引き()る四肢を伸ばそうとして、(あきら)めた。

(かし)いだ自分に剣が耐えられず、その場に崩れ落ちた。


『ナナシノ!』


 イリイチが吠えた。

(うるさ)い。感情の振り幅デケェよ。今しんどいンだ。思念でなくて言葉を使え。


 戦慄(わなな)(まぶた)()じ開けた。

天幕の中は惨憺(さんたん)たる有様だった。屋根は吹っ飛ばされているし、壁なんか骨組みごと焦げて布が垂れている。よく全焼にならなかったな。


 視線を彷徨(さまよ)わせて、周囲の混乱に気付いた。

老女は厳しい顔で何かを指図し、保護されていた双子はそれぞれハルトマンと部下に抱きついて泣き、奔走している男達は厚手の毛布や棒で小火(ぼや)を消している。

すげぇ。完璧な初期消火だ。


 母親は羽交い絞めにされて口を塞がれていた。三人がかりか。男相手に力負けしていないってマジか。すごいなクソ女。自分じゃムリだ。


 (まばた)いて、ようやく気付いた。

この混乱が無音だったことに。

風邪で死にかけて以来の状態に驚いた。あの時は結構な騒ぎだったな。

 焦げた地面に膝をつき顔を覗き込んだイリイチを、とりあえず安心させるために笑おうーーとして失敗した。


『ナナシノ無理するな。アレを食らったら、しばらく耳も身体も利かないんだ』


 そうか。わかった。だから、そんな心配そうな顔すんなよ。


 瞬きで返事の代わりにした。

イリイチは明らかにホッとした顔になった。

視界の中にハルトマンが入って来た。振り返ったイリイチが場所を譲る。


 ハルトマンが真剣な表情で何か話しかけてきた。が、悪い。思念はともかく生身の声は今ちょっと解らない。

ところで、お前の後ろで母親が半狂乱になっているぞ。

その子とイリイチが近いのがマズイんじゃないのか?


 塞がれた手を振り切って何かを叫んだ母親を、ハルトマンとイリイチは同時に振り返ってキッと睨んだ。

お前ら相当気が合うな。ホントに今日が初対面か?

羽交い絞めにしている男達が何かを言って、母親が激昂して、老女が間に入って、子供が泣いて、あああああ。何やってンだ。いい年齢(トシ)した大人が揃いも揃って。


 唇から空気が出た。


「……神じゃない」


 脆弱な自分の声が。

騒々しい光景の中で、どんなふうに届いたのか無音の自分には判らない。

 ただ、ピタリと母親の動きが止まった。

ハルトマンとイリイチ、それに老女が自分を見た。


「……イリイチは、アンタの言う<禍神(かがみ)>じゃない。力があって美人だが、フツーの人間だ」


 即座に母親が何かを言った。

厳しい顔でどこかを睨みながら無音で話している。

 ……。

……えー、なんだ。解らん。スマン。しかもアンタ、声は聞こえているのに姿が見えていないのか。

どんだけホラーだ。心中察するよ。ホントに。


 仕方がなかった。

こちらに気付いて欲しい時のやり方を応用する。


 静かに見つめて、彼女が自分を<見る>のを待った。

さほど時間はかからなかった。燃えるような新緑の瞳とかち合った。

その目が驚きに見開かれる。

 どの言葉を選ぶべきか迷ったが、見たままを話した方が良いと思った。


『……初めまして。こんな格好ですまない。イリイチと同じ元はフツーの人間で、つい数時間前に死んだばかりだ。ご覧の通り幽霊やっている。自分の事はナナシノと呼んで欲しい』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ