23. だから話す事にした。
痙攣した身体は動かないが、耳も聞こえるし口も利ける。目は……、顔が上げられないから地面しか見えない。
潰れた蛙みたいな有様になった自分に、ハルトマンが気の毒そうな声で呻いた。イリイチがオロオロしている音がする。
情けない姿に、ため息が出そうだ。
呼吸を飲み込み唇を開いた。
「部隊長、少し時間を。イリイチ……悪いが、肩貸してくれないか」
ようやく絞り出した言葉は、冷たい地面に吸い込まれ途切れがちになった。予想以上に弱々しい声に気が滅入る。
しかも自分の要望は、すぐさま二人に「ダメだ」と同時却下された。
……。
……会ったばかりなのに、お前ら息ピッタリだな。何故だ。
不思議に思って首を捩ると、男二人が気まずそうに互いを見ていた。
自分の視線に気付くと素早くアイコンタクトを交わし、こちらを見下ろす。
イヤな予感がした。
「すまない。ナナシノ殿が歩けるまで待てない」
「了解。おぶった方が、負担が少ない。ナナシノちょっと触るぞ」
おぶ!?
ちょっと待て!?
ハルトマンの事情とイリイチの同意に反論する暇も無かった。
ぐっ、と腕を掴まれ、あっという間に背負われる。がら空きになった胴が容赦なく引き攣って、思わず呻き声が出た。
自分を背負ったイリイチを確認したハルトマンは「こっちだ」と言って先に歩き出した。
実に不本意だった。
救急搬送で担架に乗せられ運ばれたのも納得できなかったが、「おんぶ」というのは問答無用で屈辱的だ。気分はドン底になった。
「……なぁ、ナナシノ」
イリイチはおずおずと話しかけてきた。
止めを刺した自覚があるのだろう。覇気が無い。限界まで気力を削られ、おんぶまでされた自分も元気が無い。
「……なんだ?」
「……日本人っていうのは皆お前みたいなのか?」
ポツリと訊ねられた内容は抽象的だったが、酷く落ち込んでいるのはわかった。ため息が出た。自分の所為だからだ。
全ての日本人が、二度も死ぬ自分みたいな国民か?
「……いや、違う。数を集めて比較した事はないが、自分が極端なんだ。そもそも身体が頑丈じゃないし」
気にするな、と続けた言葉にイリイチはムリヤリ頷いたようだった。
……マズい。コイツ絶対気にする。
そう感じた。
だから話す事にした。
「イリイチ、聞いて欲しい。……自分の死因のことなんだが」
一瞬、イリイチの歩みが止まりかける。が、そのまま何事も無かったように進む。
了承の意と解釈して、続けた。
「偶発じゃないんだ。事故発生の原因は別にあった。自分が死んだのは――」
うあ。話すって決めたけど、気が重い。
死ぬ前に何トラブってンだ自分。
「――横領を発見して内部告発したからだ」