20. 一寸の光もない闇の中で。
一寸の光もない闇の中にいた。
どこか馴染んだ暗闇に、前に死に掛けたときと微妙に異なる気分になった。
あの時は浮かれてアチコチ彷徨った。
はっちゃけた結果、行く先々で心霊体験に遭遇し、それまで「そういうこと」に無知だった自分は、ものの見事にトラブった。
<河>に辿り着く頃には沢山の霊に憑かれていた。
あの中心で宇宙を仰いだとき。
やっとわかった。
自分が「死んでも直らない」ということが。
憑いていた全員は逝ってしまった。諦観した自分を置き去りにして。
ため息も出なかった。
抑え付けられ絡まった闇をそのままに、自分の中の風景を探す。星が瞬いたように思った。
閉じていた目を開けた。
地下室ではなかった。
清浄で涼やかな<河>の中心で、自分と、どこか呆然とした風の九人の幽霊は、宇宙を仰いでいた。
遠い蒼穹の輝きは刺すようだ。
見上げた空へ、光が瞬いていった。全部で九つ。最後まで見送って、次に周りを見渡したら、――誰もいなかった。
……解りきっていただろうに。
夜を思わせる空間で、ため息が出そうになった。
ふ、と。イリイチに呼ばれた気がした。
懐中時計を思い出した。
瞼を閉じて、目を開けた。
予想通り、自分を取り巻く環境は変わっていた。
自分は<河>から、イリイチの側へと移動していた。