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2. 河で気がかり。

 病院に運ばれて緊急手術が始まった。

自分は、青白い廊下の蛍光灯の下でボケっと突っ立ってた。

 ちょっと様子を見てきたが、すぐに引きかえしてきた。

血だらけの傷を見ても医者じゃないから解らんし、修羅場ってる現場をうろつくのは本意じゃないし、自分じゃ何も出来ないのを誰よりも知っているし。

せめて、家族が駆けつけるまで保つかな、と思っていたけど。


 うーん。無理っぽい。


 仕方ない。いつかちゃんと謝ろう。

自分で自分を見下ろすなんて体験が、二度目だから解るんだけど。あんまり、この状態でそう長い事こっちに居ちゃいけないんだよ。

 むしろ居残る弊害の方がシャレにならん迷惑をかけるから……、しょうがない。


 ゴメン。先にいく。


 瞼を閉じて、目を開けた。

病院の廊下から、果てのない世界へ。

 予想通り、自分を取り巻く環境は変わっていた。

夜を思わせる空間は、昼のように視界が利く。昔のままの清浄な空気。澄んだ蒼穹。

星の輝きは刺すようだ。水流は浅い。やわらかくて、穏やかで、たっぷりとした広やかさ。

 自分は<河>の中心で宇宙を仰いでいた。


 おお。この星空、前のまんまだ。この河も相変わらずの清水だなぁ。


 懐かしくって、口角が上がった。

実は風邪から退院したとき、見た風景が<お花畑>じゃなかったからネットで検索かけてみたんだ。正直いって驚いた。結構いろいろな人が臨死体験しているみたいで、人の数だけ風景が違うんだと思った。

 バラエティー豊かなエピソードがいくつもあって腹筋が崩壊したけどな。


 さて、いこうか。


 不帰路に近づこうと意識を切り替えた途端、つ、と何かに引かれた。

前とは違う。

引かれるなんて、初めてのことだ。一度目の時は「まだいけないなぁ」と思ったら風邪で死にそうな身体に戻ったが、この気がかりはゾッと総毛立つような悪い感じだ。


 何だ?

 何だ、コレは?


 無視できない。

横領に気付いたときの直感と似ている。

放置すると害悪が広がり、取り返しのつかない事態になるような。


 家族や友人は知っているが、自分に降りかかった被害なんざ、実は自分にとって重要じゃない。カウンター後は大概放置だしソレ以上のアクションは起こさない。

今だって、アノヤロウが警察に逮捕されるのを目の前で見たから、気は済んでいる。

ぶっちゃけ七代祟るのも面倒でやりたくない。

 ただ、手を打てる段階を放置した結果、自分以外の誰かが理不尽な目に遭うのはゴメンだ。そうであって欲しくない。それだけの理由だ。


 まだいけないのか、と思った。


 <河>が消える。

微かな力は、意思を持った。ぐっ、と引っ張られた。

 次の瞬間には、濁流にのまれる木切れのような有様になった。特に抵抗なく引かれるままに任せれば、沈むことなく浮かんでいられる。

 清涼な空気が薄れ、濃厚な気配が満ちてきた。

ゾッとした感覚と、同じ気配だった。

息ができない程の熱が凝っている。呼吸をしているわけではないから苦痛はないが、不快さは梅雨時の不本意に熱い風呂並だ。

風呂場なら換気扇を回すなり小窓を開けるなり対処できるが、さて。


 気がかりの原因の一つはコレか?


 ゆっくりと気構え、意識を研ぎ澄まし鎮めていく。

どう対処するにしても、この気配の正体が何かを把握しないとトラブルに巻き込まれるだけだ。

周囲の激流は相変わらずで、咽返る程の熱が渦巻き、雲の代わりに闇が沸き立つ。時間は一瞬。

 ふ、と。

 自分の中の風景の星が、瞬いたように思った。

その途端、濁流から拒絶され、弾かれる。

熱の奔流は何もかもを破壊する力を持っていたが、水に浮かぶ木っ端が大波を被っても沈まないように、自分には効かない。

するりと流され、引力に誘われるに任せた。

そのうち岩のような壁に突き当たった気がして、手を伸べる。自分の指がガラスを通る光のように岩を透過し、更にその手を誰かが握って引っ張った。

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