18. スルーするのがマナー。
さっと目を走らせて、打ち壊された祭壇の傍に立っている男に気付いた。
青い瞳が、真っ直ぐに自分を見ている。
こちらが気付いたのが伝わると、瞬時に視線を外された。
別の男から話しかけられ何やら指示を出している様子を見て、この男達の責任者のように思えた。
<見える人>か。
自分は、ため息が出そうになった。
人間、フツーに生活していれば幽霊との接触はない。
死んで解った事だったが、偶さか自分みたいな変な現象に巻き込まれるか、心霊現象に遭遇し体験する等の特殊な事情以外、出会う確率はゼロだ。
ただ、例外がある。
それが<見える人>だ。
小さな子供だったり、死期が近い人だったり、元からだったりとイロイロだが、総じて言える事は、彼らにデタラメやごまかしは通用しないということだ。
互いに干渉せずスルーするのがマナーだが、有事の際はその限りではない。
今回のように明らかに異常な人死にが発生したとき、手近な者に事情をきくのは当然の事だ。ただし、それが生きている人間ばかりでないのが<見える人>の特徴でもあり厄介なところでもある。
ケースから眼鏡を出して、かける。
視界の中に、馴染んだフレームが鎮座して、そっと息を吐いた。
イリイチの時もそうだったが、どうも眼鏡を外していると考え事が漏れるらしい。
視力は良くはないが、悪くもない。便利だから使っていたが、知らないうちに役立っていたようだ。
壊れた神器の欠片を避けて祭壇の近くまで行く。
男からすると妙な間合いになるが仕方ない。
イリイチのツンツン攻撃がまだ効いているんだよ。
ゾワゾワする鳥肌に加え、この地下室の気配にムカつきそうだし。
周囲に部下がいなくなった男は、ほのかに笑っているようだった。
皆と同じ濃紺の衣と頭巾を纏っているが、どこかで見たような青い瞳は柔らかい。
温かい目は、老女の光彩に似ていた。親戚か?
男の手近に棍は無く、佩刀していた。
ごく小さな声で紡がれた言葉は笑みを含んでいた。
「初めまして? 上でゴツイのに遊ばれていたが大丈夫か?」
……。
温かい目じゃない。生温かい方の目だ。しかも楽しんでいるクチだ。
ぐったりした気分になった。
確かに平時はスルーするのがマナーだが。
お前。アレ見てたんなら止めろよ。